ちょっと、古い、クルマ探偵団

NAVI 1992年11月号より:サーブ99GLE(78年型)に乗るGmさんの巻



NAVI 1992年11月号 単行本(1999年二玄社)



探偵: 99との出会いはいつですか?
Gm : 72年のカーグラフィック誌で、小林彰太郎さんの試乗記を読んだときですね。
おもしろそう な車だなと興味をもって、そのあと他の雑誌で記事を読んでいるうちに、好きになっていったんです。CGのロードテスト記事なんか何十回も読みかえして、しまいには一字一句おぼえました。
少年: 情熱的というか執拗というか。
Gm : 車を買うときはじっくり検討するんです。少なくとも3年はかけますから。
少年: 国産車だとモデルチェンジしてしまいますよ。
Gm : じっくり選んで、じっくり乗るのが私の主義なんですよ。最初に乗ったのが69年型ギャランAII・1500でした。
探偵: AIIといえば、69年に発表された初代ギャランですな。かの有名なGTOといった高性能モデルはこのシリーズの派生車種です。
Gm : これには7年乗ったんですが、どうもダイナモが不調でバッテリーが上がってばかりいまし た。
探偵: それでも7年間、ですか。
Gm : ええ。次は75年に、初代VWゴルフGLEを新車で買いました。実はこの時サーブは、わが国 の排ガス規制のせいで輸入が中断されていたんです。でも、このゴルフに乗ったときは「ギャランと次元が違う!」と目からウロコが落ちる思いでした。
少年: ボロボロと・・・。
Gm : ボロボロと・・・。スタビリティは高いし、剛性感はあるし。さすがドイツの車、なんですね。で も1年乗っているうちに、ものたりないと感じるようになってきまして。私は趣味の対象になる車がほしかったのに、ゴルフは所有する喜びを与えてくれないんですね。あくまで機械なんですよ。
探偵: ははあ。
Gm : そうなって、オレはサーブに乗りたい、という思いがますますつのりましてね。でも当時、私が赴任していた浜松じゃ、サーブの実車を見る機会はありませんでしたから、東京や大阪に出張で行くたびに、なんとか時間を工面してはショールームにかよいました。だから、いわば枯渇した状態で、ゴルフに4年間乗ってたんです。
探偵: サーブに枯渇していた、と。
少年: それでも4年間はゴルフに乗ったからサスガですね。
Gm : ・・・。やがて79年に西武自動車は99の輸入を再開したんですね。そして、翌80年にはニューモデルの900を売り出しました。そのときに99からの買い替えが何件かありまして、練馬の西武自動車中古車センターから「3台、下取りでとった99がありますよ」と電話がかかってきたんで、新幹線に飛び乗って浜松から東京まで行きましたね。それで一番程度のよさそうな車に決めたんです。価格は280万。社内貯金を全額ひきおろして購入資金にあてました。
探偵: 99はどういう車ですか?
Gm : よく「どこがいいの?」って訊かれますが、どこがって具体的に指摘できないところによさがあるわけです。大きすぎもせず、小さすぎもせず、速すぎもせず、遅すぎもせず、突出したところはないけれど、個性はしっかりある。
少年: ははあ・・・。
Gm : 抽象的な言いかたをすると、5年乗れば5年分熟成されてくるものがあるというかんじです。飽きないんですよ。具体的には、ボディ各部のデザインひとつとっても、こだわりがある。たとえば室内には、白い円のモチーフがいたる所に使われているんです。メーター類、ウィンドウ・レギュレーターのノブ、ヒーターのコントローラーといった具合に。これは、初期のサーブのエンブレムに用いられている、飛行機のプロペラのモチーフを流用しているわけです。
少年: ははあ・・・(感心する)。
探偵: ところで故障はしませんか?
Gm : します。発表されてからずいぶん経っているんで、おおかたのトラブル・シューティングは済んでいるだろうと思っていましたが・・・。手元に来てすぐにパワステのホースがはぜてオイルがエンジンルーム内にバラまかれたのが2回。ワイパーが気まぐれな動きをしだしたこともありました。このときは修理工場で「アトランダムに動くように設定されているんです」なんて言われたりしましたね。もちろん、そんなコトはありませんよ(笑)。
少年: ガソリン漏れは?
Gm : ありました。フューエルパイプにクラックが入りまして、圧力がかかるとそこからピューッとガソリンを吹くという。でもエンジンが停止していると漏れないから、原因をつきとめるのに苦労しました。
少年: よく御無事で・・・。
Gm : ここ3年のあいだにも、修理などで200万円くらいかかりましたね。パワステのオーバーホール、ボディ全塗装、ウォーターポンプ交換、エアコン修理、マフラー交換といったぐあいですよ。
探偵: それでも乗りつづけると。
Gm : 腹を立てているのは、正規ディーラーに修理を頼むと、「これくらいの年式だとパーツがあるかどうか・・・」なんて、イヤな顔をすることです。本国にはパーツが揃っていますから、頼めば1週間で届くのにですよ。本来なら「こんなに長く乗っていただいて」と感謝してもらってもいいと思うのですが。
少年: それじゃ儲からないから、新車に買い替えてくれるひとのほうが好きなんでしょう。悲しいハナシですよ。
Gm : たしかに今じゃ、99に乗っているひとは少ないみたいですね。私が創立メンバーの「サーブ・オーナーズ・クラブ・オブ・ジャパン」でも、会員は40名以上いるのに、99のオーナーは他に1名いるだけですし。でも、900も9000も好きになれないんですよね。イタリアのメーカーと手を組んで開発した結果。ボディがウスラでかくなったりしてサーブ本来の持ち味を失った9000は言うに及ばず、900もサーブの初代スタイリスト、シクステン・サッソンのオリジナルデザインを見事に損ねてしまっていますから。どちらにも乗る気がしないです。
探偵: ほんとに99がお好きですなあ。
Gm : 昨年引っ越したとき整理ダンスだって運べたし実用性だって相当高い車です。
少年: Gmさんは完全無欠のサーブ・オーナーですね。グレートオですよ。

SAAB99:日本には73年から79年まで(途中一時中断)輸入されていたサーブ99。サーブにとっては初の世界に通用するボディサイズをもったミドルクラスFFサルーンである。当初はトライアンフ製の1.7Lエンジン(80ps)を搭載したノッチバックスタイルで登場。72年に2Lの新エンジン(110ps)がとってかわった。また78年にはターボ・エンジン(145ps)が追加されている。ハッチバックボディは74年からの設定。84年には9000の登場にあわせて、モデル名が90と変えられた。独特の自動車らしからぬ(?)雰囲気によってアメリカ東部のインテリ層に受け入れられた車でもある。