ランチア(テーマ16Vターボ)に換えてから早や4年余りが経った。驚くべきことにその間、全くのノートラブルである。テーマは速いし燃費も良い。そして簡素でありながらセンスの良い内外装も魅力的で、全く文句のつけようがない。だが不思議なことに、テーマに対しては愛着というものが湧いてこないのである。昔から『出来の悪い子ほど可愛い』というけれど、今でも時々懐かしく想い出されるのはあのSAABのことである。
13年と12万キロを共にしたSAAB99GLE。装甲車の ように頑丈な鉄板で覆われていたこのチャコールグレーの「宇宙船」は、あらゆるところがユニークだったけれど、また、ありとあらゆるところが壊れたのである。パワステ、ウォーターポンプ、フュエルポンプ、サーモスタット、クーラー、ワイパー、スピードメーター、距離計・・・・。走行中パワステのホースが3回破裂したし、燃料パイプからガソリンが霧状に吹き出したこともあった。乗るのもまさに命がけである。
お陰で随分と車に詳しくはなった。西武自販からもらった電話帳のように分厚い英文のサービスマニュアルを片手に、休日といえば白いツナギを着て車の下に潜っていたので、家内は近所の人から『ご主人は車の修理屋さんですか?』と聞かれたそうである。
こんな手の掛かる我が家の99だったが、良いところもまたいっぱいあった。幅が短く縦長でがっしりとしたドアを開け、サイドシルが無いので足入れの良い室内に乗り込む。ソフトだけれど疲れないシートに腰をおろすと、助手席との間に位置するイグニッションにキーを差し込む(随分スタンドマンを悩ませたっけ)。どんな時でも一発で目覚める2.0Lの4気筒はいつも健康そうなバスで排気音を奏でていた。見るからに頑丈なサイドブレーキをリリースし、頭の銀色のボタンを手のひらで押しながらシフトノブを手前に引けば、ゴクンと繋がり発車オーライ。おっといけない、ギロチン式のシートベルトを忘れずに!
天気の良い日は、加速にあわせて"手動"サンルーフを後ろに引けば0.5秒の早業だった。コストのかかったフロント・ダブルウィッシュボーンのサスと60でも70でもない82プロファイルのピレリP-3.165
/15(オリジナルはゼムペリット)のもたらす、あくまでも穏やかな乗り心地は、自然乗る者の心を和ませ、癒してくれるような気がしたものである。
99が開発されて今年でちょうど30年。あの家族の一員ような親しさを現代の車に求めるのは無理なのだろうか。もう一度あの車を手に入れ、きれいにレストアして街をゆっくり流して走ったらカッコいいだろなー、と思いはじめている。私も年をとって少し大人になったのかもしれない。
( 1997.02.10 by Gm )
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