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ナンバーはGmの321(ミニワン) |
コンパクトだが走行性能や乗り心地、デザインや快適性も一流という、いわば"小さな高級車"をずっと探していた。ところがこれがあるようで意外にないのだ。大きければ高級・豪華で、小さいクルマは安物でシャビーという考え方のこの国では、まだ暫くは生まれ得ぬカテゴリーだろうが、輸入車に目を移しても小型車には大衆車の域を出ないものが多い。
高級という意味は、単に内装に木目パネルを使ったり、シートを革張りにしたり、やたら何でも自動化したりすることではないし、ましてエンジンや足回りをチューン・アップすることでもない。かつて欧州小型車にイノチェンティ・デ・トマゾやアウトビアンキ・アバルトなどホットハッチと呼ばれるカテゴリーがあったが、運転してみると乗り心地が悪い上に音や振動も大きくて閉口したものだ。ベースが大衆車では後から幾ら手を加えても却ってバランスが崩れ、高性能車にはなっても高級車に生まれ変わることはできない。僕が高級車に求めたいのは豪華さやブランドや動力性能ではなく、明確なコンセプトに基づいて隅々にまで行き届いた設計者の品質や機能へのこだわりと、洗練された遊びやゆとりのセンスなのだ。
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エバー・グリーンなミニのスタイル |
そんな中でMINIは昔から気になる1台だった。街中をキビキビ走る姿がとても良い。隣にどんな高価なスポーツカーや大型セダンが並ぼうと決して引け目を感じさせない不思議なオーラを放っている。時間という試練を経ているからだろうか、小粒だが凛とした存在感は他に並ぶものがないし、運転席でハンドルを握る見ず知らずのドライバーにさえ、大方の人々とは違う個性的なライフスタイルを感じさせ、淡い好意と畏敬の念を抱かせてしまう。
ところがいざ買おうとするとMINIには妙なプレミアムが付けられていて新車にも中古車にも車格や年式の割にバカ高い値札が付けられていた。そして何よりガッカリするのは細かいところの造りの悪さ。ドアノブ一つとっても、形状や操作感がただ古さを引き摺っているだけで、レトロとかクラシックとかいう言葉に甘えて進化や造り込みを怠っている。"神は細部に宿る"という箴言を信奉するGmには許し難い箇所が散見されるが、それはまあ設計年次の古さ故に目をつぶるとしても、ダメ押しは安全性の低さで事故れば間違いなくあの世逝きという点だ。
そこに登場したのがニューMINIだった。
英国ローバー社に代わってドイツのBMWがゼロから設計し直し、エンジンもニューMINI専用に新開発。MINIのエンブレムを付けてイギリスの工場で製造していると言う素性だから、ニューMINIはもはや英国車ではなく英国産ドイツ車と言うべきか。初めてショールームで見たときは何だか全体に大型化して「これはもうMINIじゃないじゃーん」と落胆したのだが、その後街を走っている姿を見ると紛うことなきあのMINIなので驚いた。
数々の偉大なMINI伝説がBMWを本気にさせない訳がない。もし無骨で不細工なMINIでも造ろうものなら世界中の物笑いになる。真面目で勤勉なミュンヘンの技術者達は、あらゆる角度から旧MINIの魅力とアイデンティティーを研究し、不慣れながらも精一杯遊んでみせた。BMWとドイツの威信を賭け充分な開発期間とコストを投入した結果、小型車でありながら最新のテクノロジーと高品質、そして遊び心を併せ持った"小さな高級車"が誕生したという訳だ。ボディーの大型化も『衝突時に乗員の最小限の生存空間を確保するため』と説明されれば頷くしかないだろう。
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ダブルケースがぴたり |
ニューMINIは"俊敏でキュートなスモール・カー"というコンセプトを先代から受け継ぎつつ、あらゆる面で飛躍的な近代化が図られている。クイックなステアリングはそのままに、長距離でも疲れない上出来のシート、乗り心地と直進性に優れたサスペンション。そしてコンパクトで粘り強い1600ccエンジンは高速でも力が衰えることなく、軽量で剛性の高いボディーを、(内緒だが)180km/hまで引っ張ることができる。外観から想像するよりずっと広く開放的な室内や、ミニマムサイズだがクラのダブルケースがぴったりと横置きできるトランクもお誂え向きだ。全てはあるべきところにあるべき形と機能を備えて配置されており、ボンネットを開けても、車体の下に潜っても、カーペットをめくっても細部に至るまで図面通りきっちりと組み上がっていて隙がない。
また、デザイン面でも旧MINIのデザイン・モティーフが現代風にアレンジされ、車内外のあちこちに再現されていて楽しい。例えば丸目のヘッドランプから延びる2つの峰を持つボンネットや、丸く長いルーフ形状、ボディー四隅ぎりぎりに配されたホイールや、角度の立ったフロントガラス等
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なかなか芸が細かい |
は旧MINIの外観を特徴付けるものだった。さらにダッシュボード中央に位置する大型スピードメーターや、その下に横一列に並んだトグル・スイッチ群など、必ずしも使い勝手が良いとは言えないけれど、旧MINIをよく知る者にとっては堪らない隠し味だろう。また、余り言われないことだが、エアコンのコントロール・スイッチ類も、さりげなく旧MINIのトレードマークであった翼の形に配置されているのだ。
・・・という訳で、今、黄色いニューMINIが私の手許にいる。
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