ハロー・グッバイ スバル R1
セカンドカーは高級車





小さいながら存在感のあるR1。ボディカラーは黒か赤しかない
我が家のセカンドカーとしてやって来たスバルR1という軽自動車をご紹介しよう。まず気に入ったのは、その弾丸のように量感のあるボディ・デザインだ。立体的な曲面が複雑に組み合わされていて、パネルの金型には随分贅沢に費用が投じられたことが窺われるが、その加工精度も軽の水準を超えている。R1はハッチバック付き2ドア(3ドア)だが、ベースとなっているのは、先行発売されていた4ドアのR2というモデルなのだ。このR2のスタイリングは、他のどのクルマにも似ていない独自の個性を放っている。

リアゲートあたりの曲面はかなり迫力
軽自動車は、エンジンの排気量と車体寸法に制約を課せられた上、あたかも市中引き回しのように黄色いナンバープレートを装着させられる代わりに、税制面等で大幅な優遇が受ることができる。燃費も含めると普通車との維持費の差は圧倒的だ。排気量の上限である660ccエンジンでも最近のものは充分パワフルで、車が小さい分、重量が軽い(810Kg)ことも手伝って、街中は元より高速でも痛痒を感じることはない。しかしながら外寸の制限だけは如何ともしがたく、各社は競ってより広い居住空間を確保するため、車幅(147cm)と長さ(399cm)の制限一杯まで使い、あとは高さで稼ごうとする。結果として箱のように四角く背の高い、無粋かつ無個性な軽が出来上がるというわけなのだ。

往年の名車、スバル360
ところがスバルは、R2にあえて全長と車高を押さえた丸くコンパクトなボディを与えた。細部のデザインにもこだわって、他社には無いユニークなプロポーションとセンスの良いインテリアを実現している。ボディカラーにも淡く可愛い色が揃っていて、ある種知的なゆとりさえ感じさせる。かつて「てんとう虫」の愛称で呼ばれ親しまれた「スバル360」をモティーフにしたようだが、そんなことを知らずとも充分可愛くおしゃれだ。
街で見かける4ドア版のR2。パステル調の綺麗な色が揃っている。とても可愛いと思うのだが、販売網が弱いのか余り売れていないようだ

売れ線ワゴンRは箱のように四角い
いつしかR2に関心と好感を抱き始めた頃、実はR2には、R1という2ドア版の姉妹車種があることを知った。このR1の中身がまた飛び切り変わっていてとても僕好みなのだが、一般的には全く理解不能なのか、現在、全国で月にたった100台位しか売れていないようなのだ。これは軽のベストセラー・カーであるスズキ・ワゴンRの100分の1以下である。従って、めったに路上で遭遇することもない。これは今の内に手に入れておかないとヤバそうと思っていたら案の定、先日年内での生産中止が発表された。何物によらず、良い物は駆逐されるのが世の常なのである。

7年乗ったスズキのKeiも2ドアだった
軽自動車というのは現在、所詮は「実用車」であり「我慢車」と考えられているから、荷室は出来るだけ広く、ドア数は多いほど便利というわけで、ほとんどは4ドア(または5ドア)だ。だが、2ドア(3ドア)の方が圧倒的にスタイリッシュでカッコいい。メーカーも同じ車種に両タイプを用意することもあるが、断然4ドア版の方が売れるので、2ドア版は早晩廃番の憂き目に会い市場から姿を消してしまう(今まで乗っていたスズキKeiもそうだった)。スバルのR1がそれら幾多先人と異なるのは、開発コンセプトに忠実なR1専用ボディを与えられたことにある。

アルミホイールのデザインも美しい
R1はR2より全長で110mm短く、車高でも10mm低い。ホイールベース(前輪と後輪の中心軸間の距離)に至っては165mmも短いのだ。最小回転半径はたった4.5mである。更に贅沢にもホイールサイズは、R2を含むほとんどの軽自動車が14インチであるのに対し、15インチにサイズアップされている。これらによってR1は、極めて強固なボディと俊敏な運動性能を獲得しているわけだが、これは自動車メーカーが血道を上げる「部品共通化によるコストダウン」という至上命題に背くものだ。だがたった10cmの差にどうしても譲れない価値感を見出したスバルというメーカー、只者ではない。

コンパクトで静かなエンジンは高度なメカ満載
R1の心臓部であるエンジンは、軽の主流である3気筒ではなく、普通乗用車と同じスムーズな4気筒であるばかりか、DOHC(ダブル・オーバー・ヘッドカムシャフト)にAVCS(可変バルブタイミング)という、スポーツカー張りの高度なメカニズムが搭載されている。さすがにスバルのお家芸である水平対向エンジンではないことが惜しまれるが、EGI(電子制御燃料噴射)によって54馬力を発生させ、平坦な高速道路であれば140Kmまで刻まれたメーターを振り切ることさえできる。その限界付近でもエンジンが悲鳴を上げるようなことはなく、車内は案外平穏でクルマの直進性や挙動も実に安定している。

スバルのR1に対する思い入れは、さらに、本皮巻きステアリングやアルミパッド付きスポーツペダルといった内装部品にまで及ぶ。その最たるものは、R1にのみオプションで用意される、アルカンターラというシート生地だろう。アルカンターラは、かつてランチアテーマが初めて日本に上陸させたスエード調の高級素材である。パワーウィンドウや電動ドアミラー、アンサー式リモコンドアロック、CDプレーヤ、UVカットガラス等の標準装備は今や常識として、ヘッドランプがオートレベライザー付きプロジェクターHIDというのだから、まさに至れり尽くせりである。
皮巻きステアリングとメーター類 アルカンターラ/本皮のコンビシート ミラーと照明付きサンシェード 後席を倒せば結構大きな荷室

スバルR1、チャームポイントの数々

SUBARUはSAAB同様、航空機メーカーの出身
R1は、ボディ剛性、エアバッグやABS(アンチロック・ブレーキ)といった安全対策にもぬかりがないが、燃費においても、スバル得意のCVT(無断変速機)により、24.5Km/Lという極めて優秀な数値を達成しているから驚きだ。名実共にエコ時代の高級車と呼ぶにふさわしいではないか。R1を運転していると、軽という引け目を感じないばかりか、信号待ちで並んだ3,000cc級高級セダンのオーナーを横目で見ながら、「何が嬉しくてそんなデカいクルマに乗ってるんですかねー」と、妙な優越感すら抱いてしまうから不思議である。軽の2ドア・パーソナルカーというニッチな存在であるR1に、クルマの未来を先取りして、独自の存在意義を与えようとしたスバルの志の高さと勇気に対し、大いなる拍手を送りたい。

(2008.09.03 by Gm)