ある晴れた日に
掛川の一日



久し振りに晴れ渡った日曜日、五月晴れを絵に描いたような暖かな陽気に誘われて、用も無いのにふらふらと街へ散歩に出掛けました。
掛川駅の地下道をくぐり、お城の近くまで歩いてゆくと何となく人出があるようです。お城の駐車場前には“シルバーさん”と呼ばれる黄色いユニフォームを着たボランティアのおじさんたちが、観光バスの誘導なんかをしています。
これは普段は人通りがなく静かな掛川にはあるまじき光景です。
お城の辺りに何やら人影が、、、
掛川城には観光客がいっぱい

特にこれといった観光名所もない掛川に、この時期これだけの観光客が訪れるのは、ひとえにNHKの大河ドラマ「功名が辻」の影響と考えられます。
この大河ドラマの放送に便乗して観光客を誘致しようという地元掛川市の情熱には並々ならぬものがありました。
1年以上も前から商店街にのぼりを立てて番組の宣伝に努め「千代と一豊・掛川館」なる展示館まで掛川城公園内に建設しましたが、市民としてはそれらの費用が回収できるのかどうかいささか心配になってきます。

公園のバザールも大賑わい

山内一豊自体が余りドラマチックな人物ではない上に、掛川城に居城したのも僅かな期間だったらしいので、掛川市民ですら「一豊?千代?はぁ?」というのが正直なところです。因みに僕は不届きにも一度もその大河ドラマを見たことがありません。

まあ、何はともあれ多くの観光客が掛川を訪れてくれることは嬉しくもありがたいことですが、ほとんどの人が掛川城だけ見て帰ってしまうのは実に勿体ないことです。お城の周りをそぞろ歩けば静かな自然とちょっとした見所があるのに。。
「岩上の亀」は見えないか
右が「道徳門」、左が「経済門」です
←お城周辺の喧騒を離れて100mも歩けば「掛川市立図書館」と「報徳図書館」に囲まれた静かな池と公園があります。今日は大きな亀が何匹も池の中ほどにある岩によじ登って甲羅を干していました。
→おもちゃのように可愛い「報徳図書館」の北側には「大日本報徳社」という実に堂々たる建物がありますが、現在修復中。幕末の思想家二宮尊徳(金次郎)の教えである報徳思想を実践する場として全国に「報徳社」が建設されましたが、ここがその総本山だそうです。

掛川で多分唯一の骨董屋さん

←さらに北に50m程行ったところに一軒の小さな骨董屋さんがあります。外には大きな瓶や灯篭のような物が沢山並んでいますが、中に入ると陶器のお皿やガラスの器、掛け軸や絵などに混じって昔懐かしい懐中時計や柱時計、電気スタンドやラジオなんかも並んでいます。
僕には骨董品の趣味はなく、その価値も全然分かりませんが、店内にいると何だか「3丁目の夕日」的な懐かしい感覚が蘇ってくるので好きです。
「尺八は置いてありませんか?」と年配のご主人に尋ねると「時々そういう人が来るけど、古い尺八はどれも虫が食っちゃって音が出ないんだよ」とのことでした。

城下町掛川に因んだ外観です

お腹が空いたので商店街の方に戻って昼食を食べましょう。
基本的に掛川の商店は「皆が休む時に一緒に休む」がモットーなので、日曜日に開いている店はお城の近くを除いてほとんどありません。ですから平日よりも休日の方が人やクルマの往来が少ないので街全体が静かなのです。

→そんな中で頑張っているお店の一つが商店街の外れにある「さくら食堂」。カウンターと4人掛けのテーブルが一つしかない小さな食堂ですが、味も雰囲気もとても良いです。

若いご夫婦がていねいに作ってます

←今日は少し暑かったので「冷し中華」を注文しました。ハム、かまぼこ、きゅうり、海苔の千切りに、トマト、紅しょうが、からし添えは定石通りですが、麺の頂点に黄色いみかんと赤いイチゴが載っているところがミソです。
見た目もかわいいここの冷し中華は、麺もスープも美味しいのでおススメです。

おでんはどこで食べるのだろうか?

「さくら食堂」もそうですが、掛川城周辺は市営駐車場を初めとしてあちこちが城下町風の景観で統一されています。

電話ボックスもこの通り

→「さくら食堂」の近くにある「すいのや」さんもその一つです。このお店は最近、東海道五十三次をサッカー選手がてくてく歩いて旅をするというNHKの人気番組で紹介されていて驚きました。
それまで駄菓子屋さんだとばかり思っていましたが、何でも「静岡風おでん」がとても美味しいらしいです。確かに取材のインタビューに応じていた店主のおばあちゃんもよい味?を出していました。
おでんの注文の仕方と食べ方がいまいち良く分からないのでまだ入ったことはありませんが、今度勇気を奮って食べてみたいと思っています。

掛川城からJR掛川駅に向かって延びる中央通りには幾つか開いているお店がありました。
いつもポスター貼ってくれてありがとう

←「びさい堂」は小さな町の本屋さんです。郊外にはこの数倍大きな書店が幾つもありますが、この店を経営しているご夫婦の感じが良いのでなるべくここで買うようにしています。
以前、掛川市の地図を買おうとしたら「もうすぐ新しいのが出るからそれからにしたら?」と言ってくれました。また、いつも掛オケの演奏会のポスターを、いやな顔一つせずに貼ってくれるのでとても感謝しています。

初めてだとちょっと入りにくい雰囲気かも

→「びさい堂」近くの「うめき屋」は掛川老舗の御菓子屋さんで、表のショーウィンドウには沢山の賞状や盾が飾られています。

浜松に住む友人は「掛川に行ったら必ずうめき屋の葛湯(くずゆ)をお土産に買って帰るんだ」と言っていました。それを聞いて僕も一度葛湯を買って帰り作ってみましたが、その食感とともに子供の頃母が作ってくれた葛湯を想い出す実に懐かしい味でした。

サバラン270円、ブレンド310円

←さて、歩き疲れたので何時もの「マッターホーン」でお茶して帰りましょう。ここはご家族で経営しているらしく、家庭的な雰囲気でありながらもヘンにお客に媚びないある種の鷹揚さと無関心さが気に入っています。浜松にも「マッターホーン」というケーキ屋さんがあるので、何か関係があるのか尋ねたところ「昔同じ先生について洋菓子の修行をした」とのこと。暖簾分けということならきっと同名のケーキ屋さんは他にも沢山あるのかも知れません。この日、コーヒーととも注文したのは「サバラン」。ブランデーの味と香りが生クリームやフルーツの甘さを適度に引き締めていて、大変美味です。BGMのクラシックを聴きながら、じっくり本を読みたい時などここに限ります。この日はたまたま大好きなベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がかかっていたので、とても豊かな気分になりました。

( 2006.05.21 by Gm )