ドイツリード調整法
めざせ!1年1箱




リードを1箱開けて、2、3枚しか、(時には1枚も!)良いリードが見つからない事は決して珍しくありません。でも、1枚400円もするドイツリードを新品のまま捨ててしまうような勿体ないことは(Gmには)できません。従って引き出しの中は、使う当てもないリードで溢れかえってしまいます。それらにちょっと手を加えて、少なくとも練習用には充分使用できるリードに変身させましょう。

ヘアマン先生直伝の調整法をご紹介します。
具体的な調整作業に入る前に、リードに関する基本的な知識と用語の確認をしておきましょう。
リード(Reed:葦:アシ)は英語ですが、ドイツ語ではBlatt(ブラット:複Blätter:ブレッター)と言います。湖沼に生える繁殖力旺盛なイネ科の植物で、日当たりのよい南仏産のものが最良質とされています。表皮付近は非常に硬くほとんど振動しません。一見して竹に似た直径25mm前後のアシの管(くだ)を四等分して1枚のリードを作製します。
リード調整に必要な道具
左から、
・透明なガラス板
・鉛筆(2B、3B位)
・リードカッター(ベーム用でも可)
・小型ナイフ(刃先が丸く孤を描いているもの)
・紙やすり各種(120番~800番)
手順①
リードを光源にかざし、光を透過させます。表裏両面から観察します。観察に適した光源を決めておくと比較が容易です。厚い部分は暗く、薄い部分は明るく見えます。ハートが左右対称なのが良いリードです。どちらかに偏っていると左右で鳴りが異なり、充分な振動が得られません。
また、内層部の導管が縦にスジのように見えます。スジは他の組織より硬いので、リードの強度を保ちます。スジの間隔が詰んでいて、先端まで均等に通っているのが良いリードです。
ほぼ理想的なリード チップに繊維が少ない 一部スジが欠けている 厚みが一方に偏っている
では、上の中から最も性質(タチ)の悪そうな一番右のリードを調整してみましょう。

手順②
先ずは吹いてみます。リードが厚い場合はそのまま調整に入りますが、このリードは薄めで高音がキンキンするので、リードカッターでチップを1mm程カットします。
これで吹き心地は良くなりましたが、このままではリードの振動部分が短いので音量が出ません。そこでショルダーも約1mmナイフで削ります。
ショルダーの表皮は非常に硬いので、慎重に少しずつ削っていきます。刃を縦にして大きく深く削ると、スキー場のゲレンデのような「こぶ」が沢山出来てしまいます。
ショルダーを削り終わったら、ガラス板の上で粗いサンドペーパーを使い形を整えます。左右共にショルダーからハート部分に向って斜めにサンドペーパーを動かしますが、ハート部分を極力削らないように注意します。最後に左右のサイドの形状が同一のアーチを描いている事を確かめます。この段階ではまだ細かいサンドペーパーで形を整える必要はありません。

<余談1>
ハンブルクにはリードカッターを持って来なかったので、何十年か振りに新品を買いました(39ユーロ)が、形が昔と全く変わっていなかったのには驚きました。リードの取り付けにくさも昔のままです。小型ナイフもあちこち探しましたが、ハサミや爪磨きが付いているような旅行用の物ばかりだったので、思い切って銃砲店に入り買いました。本物のピストルやライフルがずらっと並んだカウンターでおばさんが薦めてくれたのがこれ。小型の刃が二つ付いていて丈夫なので重宝しています。


手順③
リードを両方の親指でマウスピースに固定し、左右の鳴りを確認します。普通にくわえて吹いた後、マウスピースをどちらかに45度回転させ、下唇側のリードの振動を殺して吹きます。次に逆の方向に45度回転させて吹きます。同様に、右手の親指だけでリードを固定し、左手のトーンホールを全部塞いで、下のド、上のソを吹いてみます。左右の厚みが同じなら同じ音量と吹き心地が得られるはずです。
このリードの場合は、影で見た通りやはり右側が左側より厚いので、左に45度回転させて吹くと抵抗が増して詰まった感じになりました。
手順④
リードを再び光源にかざして、削るべき部分を鉛筆で黒く塗っていきます。ガラス板の上にリードを置き、ナイフで黒い部分をそぎ取っていきます。ナイフは必ず山から谷へ、長いストロークで動かします。黒く塗った部分が消えたらまた試奏します。以上の作業を必要に応じて何度か繰り返します。

<余談2>
ヘアマン先生の師匠アルフレート・プリンツは、リードを全て自作していましたが、一切ナイフを使わず、サンドペーパーだけで仕上げていたそうです。なお、そのプロファイルはシュトイヤーのアドヴァンテージによく似ていたとのことです。

手順⑤
ほぼ思い通りに削れたら、細かいサンドペーパーで全体の形状を整えます。ご存知のようにナイフは局部的に、或いはかなり大まかに削る場合に、サンドペーパーはより広い面積を全体的に削ったり、平らに均(なら)す場合に適しています。仕上げにはサンドペーパーを指で押さえるのではなく、サンドペーパーを2つ折りにし、ペーパー自体の弾力を利用して撫でるように削ります。

<余談3>
リードの中には形状が悪くてもよく鳴るものや、逆に形状はよくても鳴らないものがあるのも事実です。それはきっと材質(密度)が影響しているからでしょう。密度の高いものはサンドペーパーを掛けるとすべすべになりますが、密度が低いものは何時までも毛羽立ったようにぼそぼそしています。
また、リードの素材は、若過ぎても枯れ過ぎ(5、6年が限度)ていても良い音がしないそうです。


こうして今回仕上がったリードは、左右が均一に鳴るようになり、高音域でもキンキンすることがなくなりました。箱を開けたときからこのような状態だったら決してはねる事はなかったでしょう。
当分リードを買う必要はなさそうですが1年1箱の域に達するにはまだまだ時間が掛かりそうです。

(2010/03/09 by Gm)