ダッタン人との戦い
人にはそれぞれ絶対やりたくないという曲があるものだ。Gmにとってはボロディン「ダッタン人の踊り」がその一つである。もちろん人気曲だけにきれいなところもあるが、まるで「インディー・ジョーンズ」に出てくる未開人の踊りを想起させる粗野なリズムと喧騒が我慢ならない。 だが、ローテーションやセクション内の事情によって今回お鉢が回ってきてしまった。しかも今まで聴いたこともない「行進曲」と「娘たちの踊り」も一緒にやるという。どれも音色や音程よりひたすらスピード重視だから、フィンガリングにハンデを負うエーラー吹きは替え指やトリルキイ、パテントcisなどを駆使してそれなりに自衛しなければならない。
 ベートーヴェンとクラリネット
以前、オケの木管仲間と談笑していたとき面白いことがあった。「ベートーヴェンてクラリネットが好きだよねー」と言うと、即座にフルートやオーボエやファゴットさんから猛烈な反論が来た。皆、具体的な曲名やメロディーの数々を挙げて、自分の楽器こそベートーヴェンが最も愛していたと主張して譲らないのだ。なるほど、聞いてみればそれぞれに説得力があり、自分の思い込みによる不用意な発言を恥じたが、もしそこに、ホルンやティンパニーやコントラバス奏者がいれば、オケ内全面バトルが始まっていたかも知れない。
 ラフ2さん問題
「アダージョのクラリネットソロ、聴きほれました!」(60代男性)、「クラリネットの音色を堪能しました!」(80代女性)、「ダイナミクスの変化が素晴らしく、極上の音色でした。すごいです」(60代男性)、「第3楽章冒頭のクラは大変良かった」(50代男性)、「クラリネットのソロ、とても素敵でした」(40代女性)、「クラリネット、ブラボーでした」(60代女性)など、お客様アンケートの中で、ラフマニノフ交響曲第2番第3楽章冒頭のソロに多くの賛辞を沢山頂いた。音がよく通るフルートやオーボエに比べ、どんなに頑張ってもめったにお客様からお褒めの言葉を頂けないクラリネット吹きにとっては望外の喜びだった。
第九3(だいくさん)問題
「第九」の第3楽章は、クラ吹き冥利に尽きる音楽だ。晩年のベートーヴェンが、この天上の調べをクラリネット(当時はもちろんドイツ式)に委ねた事実は、永遠にクラ吹きの誇りである。かなりのクラ吹きは、「そりゃー、あの深遠かつ至福に満ちた音楽を奏でられる楽器はクラリネットしかありませんよねー、ベートーヴェン先生」という、傲岸不遜ともいえる自負を心の奥底に持っているのものだ。
ライトナー&クラウスのa'-b'メカ
ベーム式と、そしてウィーン・アカデミー式のクラリネットは、中音aキイがgisキイと連結されている。つまり、aキイを押せば連動してgisキイも上がり、2つのトーンホールでaの音を出しているのだ。左手人差し指の動きが少なくて済むし、gisキイに付いた調節ネジでaの音程を補正できる利点がある。一方、エーラー式(を含むドイツ式)は、伝統的にaキイが独立している。aキイが単独で動く方がトーンホールの径が大きく取れ、クラリネットの弱点である詰まったようなa及びbの響きが改善するという理屈だ。確かにその効果は劇的とは言えないまでも、中音域と高音域の音色を滑らかに繋げるのに役立っている。
C管クラリネット考
この度、縁あって欲しかったC管クラリネットをベルリンで入手し、今後、その活用の場を求めるに当たり、改めてC管の存在意義を考えてみた。A管の楽譜をB管で吹く、逆にB管の楽譜をA管で読み替えることは、プロ・アマ問わず普通に行われている。ブラームス交響曲第1番第2楽章、ショスタコーヴィチ交響曲第5番第3楽章のように、読み替えた方が演奏効果が上がる場合はなおさらである。だが、C管はB管より全音高い。半音違いのA、B管ですら音色や吹き心地が異なるのに、一音も違うのだから、その差は倍も大きいと言えるだろう。実際吹いてみると、音色は、エスクラ程ではないにしろ、B管より細身、透明で、鋭く、甲高い。
ハインリッヒ・ゴイザーの遺産
現在、ゴイザーの音を耳にすることはかなり難しくなってしまった。ネットショップからダウンロードできる音源もあるようだが、音色というかなり繊細な情報をどこまで忠実に再現できるだろう?情報量ではLPレコードに如くはないが、ゴイザー盤は、ヤフオク等で法外な値段で取引されている上に、哀しいかな、レコード・プレーヤ自体が前世紀の遺物として市場から姿を消しつつある。何としても、ゴイザーの素晴らしい音と演奏を後世に伝える手立てを講じなければならない。
エーラー指のトレーニング
エーラー式クラリネット(ドイツ式、ウィーン・アカデミー式を含む)には、ベーム式にはない特有の指の動き(以下、エーラー指)があります。ベームの単純な指に比べると、初めは少し難しく感じますが、要は慣れの問題。幾つかの基本的な指の動きをマスターすれば容易に克服できます。将来のエーラー転向に備えて、日頃からエーラー指の訓練を怠らないようにしておきましょう。代表的なエーラー指の12パターンを、難易度、出現頻度、重要度で仕分けしてみました。
僕のエーラー武者修行
2009年4月にハンブルクに来て以来、早や9ヶ月余りが経過しました。NDR(ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)のクラリネット奏者、ヴァルター・ヘアマン先生のレッスンは30回に及んでいます。2008年4月に還暦を迎え、サラリーマンを卒業した私は、ドイツでエーラー式クラリネットを勉強するという長年の夢を実行に移しました。思い返せば私にとって大きな決断でしたが、結果として多くの掛け替えのない収穫を得ることができました。これからドイツ遊学の経緯をご紹介します。
ドイツリード調整法
リードを1箱開けて、2、3枚しか、(時には1枚も!)良いリードが見つからない事は決して珍しくありません。でも、1枚400円もするドイツリードを新品のまま捨ててしまうような勿体ないことは(僕には)できません。従って引き出しの中は、使う当てもないリードで溢れかえってしまいます。それらにちょっと手を加えて、少なくとも練習用には充分使用できるリードに変身させましょう。ヘアマン先生直伝の調整法をご紹介します。
ライトナー&クラウス訪問記
ライトナー(Josef Leitner)さんとクラウス(Wolfgang Kraus)さんは、共に同じノイシュタットにあるヘルベルト・ヴリツァーの中心的な職人さんだったが、1989年にヘルベルトが亡くなった後1993年に独立。2001年にはノイシュタット郊外にある工業団地内に広く新しい工房を建設した。30年以上に亘って、最高のドイツ管製作に携わってきた誇りと自信からだろうか、クラウスさんに撮影の許可を求めると、「どこを撮っても良いよ。大事なものは全部ここに入っているから」と、ご自分の頭を指差して笑った。
ヴィルシャー訪問記
アレキサンダー・ヴィルシャー(Alexander Willscher)さんは、地元ニュルンベルク交響楽団のソロ・クラリネット奏者を務める傍ら、2000年に会社を設立して以来、AWブランドで高品質なリードとマウスピースを製作し続けている。特にマウスピースの40Bは日本でも大人気だが、様々な高精度工作機械を駆使しての徹底した自動化と標準化がAWの特徴と言えるだろう。今回、コンピュータ制御の精密な切削機械を使って、ヴィルシャーさんに、ヘアマン先生と同じバーンのマウスピースを造って頂いた。
ドイツリード製作工程
Arundos(アルンドス)は、近年ドイツで高い評価を受けているリード・メーカーです。ケルンから東に100Km近く入った山中のSchladernという村にその工房はありました。クラリネットの専門教育を受け、音楽教師となったオーナーのOssig(オシッヒ)さんが趣味で始めたリード製作は順調に軌道に乗り、現在では年間100万枚以上を製作するまでに成長しています。将来はマウスピースの製作も手掛けたいというOssigさんは、工房の隅々まで見学・撮影することを許可してくれました。
女王様のクラリネット
一見何の変哲もないヴリツァーだが、これがザビーネ・マイヤーが1985年に、ブロムシュテット/シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)と、ウェーバーのコンチェルトを録音した楽器となれば俄然輝きを増してくる。この録音の数年前、ベルリンフィルは帝王カラヤンと対立してザビーネ・マイヤーの入団を断固拒否した。「音が合わない」というベルリンフィル側の言い分が、如何に表向きで理不尽なものだったか、このCDを聴けばよく解る。
ドイツクラリネット地図
Google Earthという素晴らしいフリーソフトを使って、ドイツクラリネット関係メーカーを地図上にプロットしてみました。ブルー系がクラリネット本体、クリーム系がリード、マウスピースのメーカーです。メーカー名の右にあるリンクボタンをクリックすると、メーカーのホームページに飛ぶことができます。
ドイツ管の定番曲
モーツァルト、ウェーバー、シューマン、ブラームスといった独・墺の大作曲家達が、ドイツ管のために遺してくれたスタンダード・ナンバーを、主観と私情を多いに交えて紹介します。(2008/6/1 & 2012/5/22 リサイタル・プログラムより)
ツェレツケ教授の神の手
“ツェレツケ”という名前は以前よりホルツの会のOmさんから耳にはしていた。彼女がベルリン国立音大に留学していた時の先生だったからである。教授はライスターと同じく、ハインリヒ・ゴイザーの弟子であり、ベルリン・ドイツオペラで長年首席奏者を務めたそうだが、現役時代から弟子のマウスピースを削るのを何よりの生きがいとしていたようなのだ。上手くいく場合もあれば、そうでない場合も結構あったらしい。
ヘアマンさんのレッスン
ハンブルク北ドイツ放送響(NDR)の2nd兼エスクラ奏者、ワルター・ヘアマン(Walter Hermann)氏がとても良いレッスンをするという話は、ノルトハウゼンの小林さんから聞いていた。折しもそのNDRが、ドホナーニに率いられて来日するというので、是非楽屋へ尋ねて行って、あわよくばレッスンをお願いできないかと思い、川崎公演のチケットを押さえた。
夢の一週間
昨年10月、バンベルクにあるセゲルケさんのクラリネット工房をホルツの有志とともに訪れた際に、今年(2007)5月にミュールフェルト没後100周年を記念し、彼が活躍したマイニンゲンで「ミュールフェルト・フェスト」が開催されると聞いた。そこではミュールフェルトに関する新しい伝記が発表され、セゲルケ氏はその中の楽器部分を担当していると言う。
ゴイザーの音を求めて
ハインリッヒ・ゴイザー、第二次世界大戦後から1970年代まで長くドイツクラリネット界をリードした名奏者である。ベルリン国立歌劇場やベルリン放送交響楽団の首席奏者を務めながら多くの名録音を残したが、残念なことに今ではそのほとんどが廃盤となっていて入手は極めて難しい。僕が高校時代から大切に保管してきたモーツァルトとウェーバーのクラリネット五重奏曲がカップリングされたLPレコードは、ゴイザーの音の素晴らしさを今に伝えてくれる貴重な記録となった。
ドイツリード大研究
クラリネットの音の源であるリードは、それ自体が振動して空気の粗密波を生み出すという点においてマウスピース以上に重要な部品であると言えるだろう。何しろオーボエ奏者やファゴット奏者はマウスピース無しにリードだけで音を出すくらいだ。
ヒモの巻き方
ヒモの巻き方は人それぞれでしょうが、どこかに「正しい」方法が書いてあるわけでもないので、見よう見まねと試行錯誤によって自分なりのやり方を編み出していくしかありません。ですが早くきれいにしっかりと巻くには多少のコツが必要です。何がしかのご参考にGm流紐巻き術を紹介します。
独・墺・仏マウスピース比較表
独(ドイツ)、墺(オーストリア)、仏(フランス)のマウスピースから、主要品番をピックアップし、比較し易いよう一覧表上にプロットしてみました。色付けした品番はドイツタイプ(エーラー式)です。なお、メーカー発表値と明らかに矛盾するものには若干の修正を加えました。また、ViottoについてはViotto氏本人の校閲を経ています。
ライスターのレッスン
ライスターは毎年のように日本を訪れては各地でクリニックを開催しているから、きっとブラームスのソナタやモーツァルトの協奏曲は飽きるほどレッスンしているに違いない。ここはひとつ、ライスターを本気にさせる曲を持っていこう、と選んだのがマックス・レーガーのB-durのソナタだった。その作戦は功を奏したようだ。
ドイツ管の仕掛け
ドイツ(リフォームド)・ベームやエーラー式、或いはウィーン・アカデミー式など「ドイツ管」と総称されるクラリネットの音色と、一般のベーム式、つまり「フランス管」の音色の違いはどこから生まれて来るのだろうか?勿論全ての楽器ついて言えることだが「音色」はその楽器を構成するあらゆる要素が複雑に絡みあって形成されている。
謎の数学者、ヴィオット
今ドイツやウィーンのプロ奏者に最も人気があるマウスピースはヴィオット(Viotto)だろう。日本でもイシモリを通じて多くのモデルを入手することができるので、ホルツ会員にも愛用者が多い。
エーラー式 vs.ウィーン・アカデミー式
同じドイツ管でも、ドイツ国内のオケやプロ奏者の間で広く使われているエーラー式と、ウィーンで正統的なシステムと認められているウィーン・アカデミー式とはどこがどう違うのだろうか?ベルリングや中音a/gis連動の有無、トリルキイの位置や内径(ボア)の違いなど瑣末なことはさて置いて、外観上もっとも異なる下管のメカニズムに絞って見てみよう。
エーラーさんのこと
エーラー式クラリネットの所以たる「エーラー・メカニック」の偉大なる創造者、オスカール・エーラー(Oskar Oehler)は、1858年2月5日にドレスデンの南西、チェコとの国境に近いアンナベルク(Annaberg)に生まれ、193610月1日にベルリンで死去したクラリネット奏者でありクラリネット製作者です。
知られざるグラナディラ
19世紀の中頃から黄楊(ツゲ)に替わってクラリネットの管体に用いられてきたグラナディラは、今でも案外誤解の多い木です。まず仏壇や小物入れなどに使われている黒檀(コクタン)と混同されています。
ベールマンのアレグロ
クラリネットを愛する人でベールマンの「アダージョ」を知らない人はいないだろう。たった44小節の短い曲だが実に瞑想的で美しいメロディーを持っている。この曲はかつて、かのリヒャルト・ワーグナーの作品と言われていたが、現在では19世紀の初頭にミュンヘンで活躍した名クラリネット奏者、ハインリッヒ・ヨゼフ・ベールマン(1784―1847)の作品とされている。
アイヒラー教授のレッスン
かのウラッハの直弟子であるアイヒラー教授が来日され、ホルツ会員にもレッスンをしてくださるという嬉しい知らせがあり、めったに無いチャンスなので早速レッスンをお願いした。曲はブラームスのソナタ第2番変ホ長調の第1楽章。齢を重ねるごとにその滋味が解ってきた曲だ。
ミュンヘンクラリネット事情
先日、南ドイツはミュンヘンを訪れた際のことである。定刻になると人形が踊りだすという「からくり時計」が有名な新市庁舎の前の広場で、世界中のおのぼりさんに混じって「その時」を待っていると、突然広場の一角でブラスバンドが演奏を始めた。
東欧クラリネット事情
先日プラハとブダペストを訪れた際に限られた時間ではあったが、チェコとハンガリーのクラリネットの現況を垣間見てきた。恥ずかしいことだが、行く前までは両国とも同じ東欧だし、ましてや隣国ということで同じような楽器を使っているのだろうと思っていた。ところが・・・
第7章 エーラー・レポート
ドイツクラリネットの周辺情報