ところが、翌年僕の手許に送られてきたA管には、彼ら自慢のa'-b'メカ(255ユーロのオプション)が付いて来た。「まあ、良いから使ってみろよ」と言うことなのだろう。
確かにこのA管は、全音域に亘ってよく鳴るし、太く温かい音色の中にも芯が感じられ大変気に入っている。問題のa,bも抜けがよく、豊かに響くのだが、これがa'-b'メカのお陰なのかどうかはノーマルがないので比較のしようが無い。
そこで、試しにサイドキイのトーンホールをテープで塞いでaとbを吹いてみたところ、どちらもピッチが低くて使い物にならなかった。つまりはサイドキイを開ける分、aの音孔を小さくしているようなのだ。理屈としては、gisよりサイドキイの孔の方が1cmほど下にあるので、ベームやウィーン式より僅かに響きが改善しているはずではあるが、それではaキイを独立させる意味が半減するようにも思われる。(因みに、オーストリア・インスブルック出身のヴェンツェル・フックスは、自身のヴリツァーをa-gis連結に改造している)
某メーカーのクラリネット設計者にa'-b'メカを見せたところ、一言、「ドイツ人は意地でもgisキイを開けたくないとしか思えませんね」。