ライトナー&クラウスのa'-b'メカ

コロンブスの卵?本末転倒?





ベーム式と、そしてウィーン・アカデミー式のクラリネットは、中音aキイがgisキイと連結されている。つまり、aキイを押せば連動してgisキイも上がり、2つのトーンホールでaの音を出しているのだ。左手人差し指の動きが少なくて済むし、gisキイに付いた調節ネジでaの音程を補正できる利点がある。
 
一方、エーラー式(を含むドイツ式)は、伝統的にaキイが独立している。aキイが単独で動く方が、タッチ感が良い上に、トーンホールの径が大きく取れ、クラリネットの弱点
である詰まったようなa及びbの響きが改善するという理屈だ。確かにその効果は劇的とは言えないまでも、中音域と高音域の音色を滑らかに繋げるのに役立っている。
 
ベーム(左)よりエーラーの方がaキイのタンポ皿が大きい ベームの調節ネジ付きgisキイ(左)とエーラーのアーチ型gisキイ

それを更に改善したと主張しているのが、ノイシュタットにあるライトナー&クラウス工房(以下、L&K)が特許を保有しているa'-b'メカ(a'-b'Mechanik)である。
 
aキイを押すと中央のキイの腕がトリルキイを押し上げる。針バネはない
その原理は実に単純。aキイを押さえると同時に連結棒で、サイドにある上から2番目のトリルキイを開けるというもの。これにより、通常のエーラー式に新たに孔を開けたり、リフォームド・ベームのような複雑なメカを装着しなくても、音抜けと響きが向上するという。2009年12月に、L&Kの工房で吹き比べた印象では、そう言われればそんな気もする、という程度だったので、ノーマルのソリストモデル(Nr.320A管)を注文した。
 
ところが、翌年僕の手許に送られてきたA管には、彼ら自慢のa'-b'メカ(255ユーロのオプション)が付いて来た。「まあ、良いから使ってみろよ」と言うことなのだろう。
確かにこのA管は、全音域に亘ってよく鳴るし、太く温かい音色の中にも芯が感じられ大変気に入っている。問題のa,bも抜けがよく、豊かに響くのだが、これがa'-b'メカのお陰なのかどうかはノーマルがないので比較のしようが無い。
 
そこで、試しにサイドキイのトーンホールをテープで塞いでaとbを吹いてみたところ、どちらもピッチが低くて使い物にならなかった。つまりはサイドキイを開ける分、aの音孔を小さくしているようなのだ。理屈としては、gisよりサイドキイの孔の方が1cmほど下にあるので、ベームやウィーン式より僅かに響きが改善しているはずではあるが、それではaキイを独立させる意味が半減するようにも思われる。(因みに、オーストリア・インスブルック出身のヴェンツェル・フックスは、自身のヴリツァーをa-gis連結に改造している)
 
某メーカーのクラリネット設計者にa'-b'メカを見せたところ、一言、「ドイツ人は意地でもgisキイを開けたくないとしか思えませんね」。
 
(2013.06.28 by Gm)