ベールマン式クラリネットのユニーク・メカ観察
2005年7月に東京多摩で開催された「国際クラリネットフェストin TAMA」において、奇しくもカナダのS・フォックスとドイツのJ・セゲルケの2つの楽器メーカーがベールマン式クラリネットのコピー・モデルを出品していたので、そのユニークな仕掛けをつぶさに観察することができた。
両メーカーはコピーしたモデルが異なるので細部の造りは若干異なるが、基本的なキイ・システムは全く同じである。材質がツゲということもあり、楽器はウソのように軽い。マウスピースとリードは現在のものより若干小さいので音量はないが、音はあくまで柔らかく倍音を多く含んでいて、弦や他の管楽器によく溶け込んだであろうと思わせる。

1. 左手!で操作する中音Fキイ
ベールマン式のFキイは、なぜか現在のエーラー式とは逆の左手側に縦に付いている。左手の薬指か小指で操作したであろうと思われるが、何れにせよやり難いこと甚だしい。
音孔をF/Cクロスキイと共用しているのも今では見られない手法だ。管体に新たな孔を開けることで音質に影響が出ることを嫌ったのだろうか?影響は無いに等しいはずなのだが。
操作性を犠牲にしてまで守りたかったものは何だったのだろう?元々このキイは余り使わなかったのだろうか?もしかしてベールマンやミュールフェルトは左利きだったのか?
確かにミュールフェルトはヴァイオリニストでもあったから左指の動きは俊敏だったに違いないが、はて?
S・フォックス J・セゲルケ

2. es/bクロスキイとes/bサイドキイとの音孔共有
ミューラー式では向かって右サイドにあったes/bクロスキイの鍵柱を左サイドに移し、cis/gisキイの鍵管と同軸上に配置してes/bサイドキイと音孔の共有化を図っている。
上のFキイにせよこのes/bクロスキイにせよ、エーラー式では元に戻される。
S・フォックス J・セゲルケ

3. cisメカの装着
S・フォックス J・セゲルケ
ベールマン式を特徴付けるもう一つのメカはcisメカニズムである。ミューラー式から受け継いだこの機構は、右手親指で指掛けの横にあるキイを押すと、鍵型に曲がったレバーがキイを押し上げてcis音孔を開けるというもので、h⇔cisのスライドを避けることができるため、♯系の速いパーッセージやh/cisトリル等で威力を発揮する。
この複雑で使い易いとも思えない仕掛けは、後にベルギーのユージン・アルバートが特許を取り、エーラー式にも採用された「パテントcisキイ」の登場によって姿を消すことになる。