デナーの2キイクラリネット
世界最古のクラ

一般にデンナーと呼ばれているヨハン・クリストフ・デナーは、息子のヤコブとともにニュルンベルクの有名なリコーダー製作者であり、二人が製作したリコーダーは今でもステインズビーやブレッサンなどと並んでバロックリコーダーの銘器と讃えられています。(某大手楽器メーカーはバロックピッチA=415Hzのアルトリコーダー「デナー・モデル」を発売しています)

J.C.デナーは1700年頃、シャリュモーでは上下ほとんど同じ位置に開けられていた親指キイ(②)を現代のクラリネットのように上にずらすとともに径を小さくし、倍音を出しやすいように改良しました。レジスターキイの発明です。これによって閉管構造特有の12度上の倍音をスムーズに出すことができるようになり音域が飛躍的に拡大して、単なる合奏楽器からソロ楽器への道が拓かれたのです。

『え?たったそれだけのこと?』と思うかも知れませんが、これこそコロンブスの卵ですね。なお、シャリュモーだって②キイを開けてオーバーブロウして吹いたとか、デナーと同時代の職人の工房にも同様の楽器が転がっていたからデナーが最初ではあるまいという説もあるようですが、ライト兄弟の初飛行のように今更何を言っても有名な人には敵いません。

また、音量を増すため立派なベルも付けられましたが、この新楽器は喩えようもなく甘美な音を出したため、当時の人には『まるで遠くでトランペット(クラリーノ)が鳴っているようだ』と感じられ「クラリネット」(クラリーノちゃん)と名付けられたそうです。
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2006年10月6日。行ってきました、ニュルンベルク。
中央駅に程近いドイツ・ナショナル・ミュージアムにデナーのクラリネットが展示されていると聞き足を延ばした。近代的で広大な館内の一角が楽器フロアになっていて、歴史的な鍵盤楽器や管弦打楽器が整然と並べられている。
デナーのクラリネットはフロア中央のガラスケースの中に、ややぞんざいに吊り下げられていた。材質のツゲは幾星霜を経て飴色に輝いているが、管体はわずかに湾曲している。
「これが世界最古のクラリネットなんですね?」と、近くにいた館員に聞くと、「え?そこに解説があるだろ?うん、そうらしいね」と心許ない。
ま、当然のことながら、ニュルンベルクの人々が皆ドイツ管の生みの親であるデナー父子を誇りに思っている訳ではないのだ。
因みに帰国してから調べると、この楽器はクリストフの息子ヤコブ・デナーが1725年頃に製作したD管で、現存する世界最古ではないと判明した。

ここは職員の通用口だが正面より風格がある 貴重なクラをもう少し大切に扱ってほしい
因みに、このフロアーの一角にはニュルンベルクの名高い木管楽器製作者であったゲオルク・グレッセル(1874. –1948)の工房が当時の機械類を用いて再現されていた。グレッセルはは既に廃業してしまったが、グレッセルのクラリネットはハインリッヒ・ゴイザーが愛用していたし、オーボエはかつてのベルリンフィルの首席ローター・コッホも使用したらしいから、非常に高い技術レベルを誇ったに違いない。

旋盤や冶具類とともにグレッセル製のクラリネットやオーボエ、リコーダーなどが展示されている グレッセル楽器製造工場の写真。
想像していたより結構でかい
右がゲオルク・グレッセル。クラリネットをテストしているのは息子だったと記憶している
(Last Revised 2007/4/22 by Gm)