第6章 ドイツクラリネット発達史
偉大な功労者たちの大年表

クラリネットは、ドイツ南部ニュルンベルクの楽器職人であったヨハン・クリストフ・デナーが、1700年頃シャリュモーというシングルリードの民族楽器に改良を加えて発明したと言われています。バロック・リコーダー製作者としても名高いデナーが考案したクラリネットにはキイが2つしか無く、最低音はミではなくファで、中音のシはシ♭の指で唇を締め上げて出すという実に大らかというかアバウトなものでしたが、その後200年以上にわたってドイツ人が叡智を結集して様々な改良が施し、遂に20世紀初頭にベルリンのオスカール・エーラーが考案、特許を取得した「エーラー・メカニック」によって現在、ベルリンフィルを筆頭にドイツのオーケストラであまねく使用されているエーラー式クラリネットが考案されました。

言うまでもなく、エーラー式クラリネットは単なるひらめきや思い付きによって突如出現したわけではありません。オスカール・エーラーは、ブラームスが感動したミュールフェルトが使用していたベールマン式を改良したのです。そのベールマン式は、ウェーバーが多くの名曲を捧げたハインリッヒ・ベールマンの息子カール・ベールマンによって考案されましたが、それはまたイワン・ミューラーの画期的な13キイクラリネット、ミューラー式が下敷きになっているのです。そのミュラー式は、クルーセルが自らのコンチェルトを吹いたと言われている10キイが、またその10キイはシュタットラーが使用した5,6キイのクラリネットがなかったら存在し得なかったことでしょう。

かくの如くデナーから連綿と連なるドイツクラリネット発達の系譜の中で、シュターミッツ、モーツァルト、シュポア、ウェーバー、ブラームスら作曲家たちも大きな役割を果たしてきました。作曲家と演奏家そして楽器製作者は、それぞれの時代の最も進んだ技術と理論を駆使して少しでも音楽表現の可能性を拡げようと互いに触発し協力し合ったのです。ですから、シュタットラーが晩年のモーツァルト作品を吹いた6キイのクラリネットは決して古楽器ではなく当時の最新式であり、モーツァルトはその性能や表現力を極限まで追求した作品を書いたのだということを忘れてはなりません。

*参考文献
・アンソニー・ベインズ「木管楽器とその歴史」(音楽の友社)・Colin Lawson編「ClarinetCambridge
・Fabrizio Meloni 「il clarinetto」Zecchini Editore・Conny Rastle. Heike Fricke編「Faszination Klarinette」Prestel
・オスカー・クロル「クラリネット・ハンドブック」(音楽の友社)
・Special Thanks to 「PIPERS」(杉原書店)