幸運なことに、サントリーホールでウィーンフィルの公開リハーサルを聴くことができた。指揮は今回の来日公演を振るグスターボ・ドゥダメル。
曲はその夜の演目であるルネ・シュタール作曲「タイム・リサイクリング」、モーツァルト「VnとVaのための協奏交響曲」、ドヴォルザーク「第8交響曲」の3曲。
席はチケットを買えば3万円の2階A席だった。
ゲネプロだからドゥダメルはじめ楽員の半分はジーパンにTシャツ、スニーカー姿。練習中の私語やおふざけも半端ない。双眼鏡で観察すると、あくびをする団員やお金のやり取りをしている団員もいた。だが、指揮者が何か話し始めると、どこからともなく「シー!」という制止が聞こえ、そして何より感心したのは、誰もが楽曲の中で与えられた自分の役割を完璧にこなすこと。
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三々五々集まって来る楽団員。まだ10代と思しき若者も数名いた |
リハはルネ・シュタール作曲の「タイム・リサイクリング」という本邦初演の曲から始まった。クラリネットの布陣は、1st.エルンスト・オッテンザマー、2nd.ダニエル・オッテンザマー、3rd.ヨハン・ヒントラー、4th+バスクラ.ノルベルト・トイブル。首席だったトイブルが今やバスクラを吹くのかと暫し慨嘆。
「タイム・リサイクリング」は、いわゆる現代曲だから変拍子、不協和音の連続だが、時折ジャズっぽくなったり、ラテン風だったりと変化に富んでいる。もう何度か本番に掛けているのか、ドゥダメルの指揮に楽員はリラックスして楽しみながら演奏している様子。オッテン父のグリッサンドも初めて聴いた。個人技は皆とてつもなく上手い。
リハの途中で大きなスコアを持って指揮台に歩み寄り、ドゥダメルに注文を付けるおじさん登場。どうやら作曲者本人らしい。その後彼は指揮台に招かれ何やら楽員に向かって長々と挨拶。最後にドイツ語と英語とスペイン語で「ありがとう」と言ったのだけは解った。楽員から大きな温かい拍手が沸き起こった。
この作曲者、どこか見覚えがあると思っていたら、次のモーツァルトで2ndヴァイオリンの中に発見。彼はウィーンフィルのヴァイオリン奏者だったのだ。さすが、すごい楽員がいるものだ。
モーツァルトのヴァイオリンはコンマスのライナー・キュッヒル、ヴィオラは首席のハインリヒ・コル。手馴れた曲なので特段の中断もなく進んだが、弦楽器の統一されたふくよかで豊かな響きと、先ほどまで鋭く荒々しかった同じ楽器とは思えないホルンとオーボエの柔らかい音色は、ウィーンフィルならではのサウンドだ。因みにオーボエはウィンナ・オーボエ、ホルンも全部ウィンナ・ホルンである。最後のドヴォ8のクラはダニエルとヒントラー。生徒と先生の間柄でありながら演奏前に握手をするんだね。
さて、リハを始めようとするが、なぜかファゴットのトップが来ない。仕方ないから第2楽章から開始。冒頭のクラの音はとても良いのだが、プラリードと知っての思い込みからか感激するほどでもない。そのうち首席ファゴットが汗を拭き拭きやって来て第1楽章からやり直し。2ndファゴットや隣のダニエルにしきりに弁解する姿が可笑しい。リードを湿らせながら「こんなに早くやるなんて聞いてねーよ」とでも言ってたような?フルートソロの高いdをピッコロが上手く受け継ぐと「やったじゃん」と周囲が冷やかすのは世界共通かも。
第4楽章、トランペットのファンファーレはまるで1本で吹いているかのようだ。
全奏のホルンのトリルはド派手。「お前ちょっとやりすぎだろ」と笑い合う。
その後の長いフルートのソロも完璧だったが、今度は誰もが無表情。当然の仕事をやったまで。褒めたら却って失礼ということなのだろう。
リハはあちこち掻い摘んで1時間半で切り上げられたが、大きなファミリーのようなウィーンフィルの飾らない素顔を垣間見ることができた。
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