今回のドイツ旅行中にどうしても調べたいことがあった。それはミュールフェルトが、どこの出身の何人だったのかということだ。ハンス・フォン・ビューローに率いられたマイニンゲン宮廷オーケストラは、当時世界最高水準の演奏技術を誇ったというから、きっとヨーロッパ中から優秀な奏者が集められたに違いない。だから、もしかしてミュールフェルトもボヘミアかハンガリーの出身で、その音楽的特質がブラームスのクラリネット五重奏曲第2楽章のジプシー風音楽に表わされているのではないか?などと想像をたくましくしていたのだ。
「マイニンゲン博物館に行って是非それを確かめたい」とセゲルケ氏に打ち明けると、「ミュールフェルト?もちろんドイツ人さ。彼が住んでいた家が今はカフェになっているから行ってごらん」と、一瞬耳を疑う発言。「え〜?ほんとにー?」こんなにあっさり答えを教えられたら博物館に行く意味ないじゃ〜ん。海の向こうからはどうしても得られなかった情報が、ここではまるで水や空気のように手に入るのだ。
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知らなければ見過ごしてしまうだろう |
ミュールフェルトの住居であることを示す石板 |
セゲルケ氏が言った通りの場所にそのカフェはあった。驚いたことに、マイニンゲン博物館とは目と鼻の先で100mも離れていない。店の外観は伝統的な住宅の様式に従っているが、結構最近建てられた様子だ。壁には黒い立派な石板が埋め込まれていて、ここが紛れもなくミュールフェルトが居住していた場所であることを主張している。 店内はさらに豪華で、高い吹き抜けの空間と白を基調としたインテリアは、中庭に面した大きなガラスから差し込む光とあいまって明るく開放感に満ちている。
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ポットサービスのコーヒーと山のように胡桃が入っていたケーキ |
まず、入り口のガラスケースに並んだ様々なケーキの中から一つを選んだ。英語はほとんど通じないから、伝統的な民族衣装を身に着けたお姉さんに「これどんなの?」と首をかしげて指差すと、丸ごとのケーキを一切れ切って中身を見せてくれる。どれもフルーツやナッツがふんだんに使われていてとても美味しそうだ。
席に着いてよく観察すると、どうやらこのカフェは2階から上がホテルになっているようで、客室に通じるエレベーターが設置されている。きっとベルリンの壁崩壊後、西側の資本によってホテルに改装され経営されているのだろう。
ガラス越しに中庭の奥へ目を凝らすと、朽ちかけたレンガ造りの廃屋が見える。もし築100年以上経っているとすれば、あれがミュールフェルト一家が生活していた母屋の一部なのかも知れない。
「そうかー、ミュールフェルトは地元出身のドイツ人だったのか。名前からしてそうだよなー。でも、たまたまマイニンゲンにクラリネットの天才がいたということなのか、はたまたマイニンゲンの音楽環境がクラリネットの天才を育んだのだろうか、、、」などと美味しいケーキとコーヒーを味わいながらしばし思いを巡らせた。
(2006/10/04 by Gm)
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