ラフ2さん問題
|
エーラー吹きのための傾向と対策
|
|
|
|
「アダージョのクラリネットソロ、聴きほれました!」(60代男性)、「クラリネットの音色を堪能しました!」(80代女性)、「ダイナミクスの変化が素晴らしく、極上の音色でした。すごいです」(60代男性)、「第3楽章冒頭のクラは大変良かった」(50代男性)、「クラリネットのソロ、とても素敵でした」(40代女性)、「クラリネット、ブラボーでした」(60代女性)など、お客様アンケートの中で、ラフマニノフ交響曲第2番第3楽章冒頭のソロに多くの賛辞を頂いた。
音がよく通るフルートやオーボエに比べ、どんなに頑張ってもめったにお客様からお褒めの言葉を頂けないクラリネット吹き(ファゴット吹きほどではないにしろ)にとっては望外の喜びだった。
「ラフ2」第3楽章のソロは、「未完成」第2楽章、「第九」第3楽章、「悲愴」第1楽章、「ブラ4」第2楽章等と肩を並べるクラリネットの名旋律だろう。技術的に難しくはないが、人の心を動かすには冷静な計算と周到な準備が必要だ。
以下の紹介が、これからラフ2を吹く人の僅かなりとも参考になれば幸いである。
|
|
1、パート譜の訂正
IMSLPで手に入るブライトコップ版パート譜には、ミスプリが散見される(赤字部分)。ラフマニノフは細心の注意を払って記号を書いているので、スコアとの照合は必須である。
まず、ソロの出だしはpではなくmfだ。pではどの楽器が鳴っているのか分からないし、mfで吹き始めることで2段目のpの再現部が生きてくる。
15小節目のmfはスコアに無い。あそこがmfなら早すぎる。pから6拍かけてfまでもっていく。
16小節後半のデクレッシェンドも無い。17小節目のdim.は、厳密な位置はgの音から。従ってfisとgはf(フォルテ)のままである。
18及び19小節の松葉記号も、指示は頭からではなく2拍目から。1拍目から大きくするのはダサい。
|
2、ブレス位置
色々試した結果 ,で表した9箇所とした。ソロが始まった2小節目でいきなりブレスする演奏もあるが、せっかく掴んだ会場の緊張感が殺がれるように感じる。
15小節目は、ラフマニノフのアーティキュレーション通り、1拍目と2拍目の間で取りたいところだが、ややもすると1拍目が短くなったり、1拍目を音価通り吹こうとすると2拍目が遅れたりしがちである。
21小節目は、後に繰り返される同様のフレーズに合わせた。
なお、27小節からのcが、楽譜通り6拍半延ばせない人は、リードのセッティングを見直した方がよい。
(万一息が無くなってもmorendoなので絶対楽器を口から離さないことが肝要)
|
|
cのピッチを下げるためバナナキイの下にコルクを貼った |
3、上のレの指使い
このソロの頂点(緑色部分)である17小節目のdは、前のcと倍音が変わるのでスラーが掛かりにくい。
特にエーラーの場合cがガーベルなので、dからcへ降りる時に雑音が入りやすい。youtubeで見た著名なドイツオケ奏者は、dをサイドキイ(上から2番目)で出していたが、それだと音色が少し明る目になる。
そもそも本番の舞台で、11小節吹いた後にガーベルcをppで出せる自信がないGmは、cを左中指(3)で出し、それにgisキイを足してdを吹いた。これなら同じ倍音内なのでスラーがきれいに掛かる。
cはガーベルより若干高めになるが、コルクで開きを狭くして防いだ。
幸い本番は上手くいった。
|
4、3つの願い
21小節から27小節にかけて、ラフマニノフは3回(青丸部分)何かを願っている。それが愛する人との再会なのか、祖国ロシアへの帰郷なのか、何れにせよ、それは叶わぬ夢なのだ。
初めはためらいがちに探りながら、2度目は熱い想いがほとばしるように、最後は定めを受容し、自らを慰撫するかのよう終息していく。中島みゆきの「元気ですか」のモノローグに勝るとも劣らない怨念、悔恨、憧憬、焦燥、諦観といった複雑な情感が秘められているように感じられる。
|
5、アゴーギク
指揮者の棒と、弦のオブリガートとの呼吸次第だが、大きくは、練習番号46の前、例の17小節の後半、20小節目の後半の3箇所(にょろマーク)。14、22、24、26小節の後半も可能だが、過ぎたるは及ばざるが如し、テンポの範囲内に留めたい。
因みに、20小節後半は、まるで時間が止まったかのようにゆったりと、22小節後半は、一瞬音が途絶えたかのごとき弱音まで絞るのが良い結果を生むようだ。
|
6、A管への持ち替えなど
第2楽章(B管)からの持ち替えは、第2楽章、練習番号45の15小節前で済ませておく。楽章の終わりまでに3回ソロがあるが、どれも書き直す必要もないほど短いので簡単に読み替えられる。
本番はリードがずれないようヒモをきつく巻いたが、マウスピースの瞬時の抜き差しがスムーズに行えるようコルクをサンドペーパーで削った。今後ゆる過ぎると感じたらライターの火で炙ればよい。
そうそう、今回ヴェルメンをステージに持って出たお陰で、水の発生とピッチの心配は一切無用だった。
幸運をお祈りする!
|
(2015.10.13 by Gm) |