ヘアマン先生のレッスン (随時更新)

Walter Hermann
南独フェーレンバッハ出身。
フライブルクにてディータ・クレッカーに師事したのち、ウィーンにおいてアルフレート・プリンツのもとで学ぶ。
ザール・ブリュッケン放送響を経て北ドイツ放送響(NDR、現エルプフィルハーモニー)に、Esクラ兼2nd奏者として入団、現在に至る。

使用楽器:ライトナー&クラウス(A/B)
マウスピース:ライトナー&クラウス・WH、ヨハネス・ベルガー
リード:シュトイヤー・アドヴァンテージ3.5、アルンドス・トスカ
下記サイトにて先生の演奏を試聴できます(ツィムリンスキーKl四)
http://download.music.yahoo.co.jp/shop/ic/11/77630210-282189687
レッスンのポイントと弟子のお節介な解説

ヘアマン先生のレッスン内容をできるだけ忠実に先生の言葉を使って再現します。全てのドイツ管吹きと、その志望者に捧げます。補足(*印)は意味が分からなければ無視してください。

Ⅰ準備編

1.楽器の組み立て
キイを押していない状態で、上下のリングがインラインになるように上・下管を接合します。
*上記の楽器のリングキイを押すと、上下のリングが少しクローズドな状態になります。余談:ライスターは、手首が丸くなる方がフィンガリングに有利との理由で極端なクローズドですが、その分cis/gisキイがすごーく長くなっています。

2.リードについて
1枚のリードを長時間吹いて濡らし過ぎると、反ったり膨張したりして変形し元に戻らなくなる。長くとも「1時間に1枚はリードを替えるべきです」。
*こまめにリードを替えることにより、変形の少ないリードを沢山持つことができる。その方が良い音で練習できるし、経済的でもある、という考え方です。先生は演奏前にリードを湿らせ過ぎるのを好まないようです。水分を含んで膨らんでしまった部分は、ガラス板の上に置いた800番位のサンドペーパーで平らに修正します。
僕は最初に先生が着けてくれたリードが最適なものだと思い込み、ずっとそれで吹いていました。ある日先生曰く、「ああ、あれは、たまたまそこにあったのを着けただけだよ」だって。因みに先生の仕掛けはウィーン系なので、リードはSteuerのAdvantageの3半を使用しているそうです。
なお、リードを取り付ける位置については、マウスピースの先端と同じ高さが標準。リードが柔らかい場合は少し上へ、厚く感じる場合は少し下へ移動させます。

3.紐:ひも(Schnur:シュヌア)について
リガチャー?問題外
*理由は、紐の方が音が良いから。それだけ。但し、紐の素材が柔らかくて伸びてしまうのはだめだそうです。今までムジークハレで、NDR、ハンブルク交響楽団、ハンブルク・フィルを聴きましたが、クラリネット奏者は全員が紐を使用していました。やはり、ドイツでは基本紐のようです。ですが、若手奏者、音大生を中心に、BGやGF-System等のリガチャーを使用する人が増えてきているのも事実です。
なお、先生に「大津・籐三郎紐」をプレゼントしたところ、「これは細いのに強くて延びない」と大層気に入られました。

b
4.練習時の姿勢
必ず大きな鏡の前に立って練習します。姿勢が傾いていないか?、顔はまっすぐ正面を向いているか?、楽器は体の中心にあるか?、毎日チェックします。「鏡は一番良い先生です」。
*Gmの場合は、やや右肩が上がり、頭が右に傾いているとおっしゃいます。また、楽器も垂直ではなく、右手の方に引っ張られているそうです。「自分も同じ問題を抱えているけれど、毎日鏡を見ながら矯正することが大事なんだ」。

5.マウスピースをくわえる位置
吹きやすければどこでも良い。
先生の歯の位置(上)
*人によって歯並びや骨格などが様々なので特に決まりはないそうですが、先生はマウスピースの先端から8mmの所だそうです。先生のマウスピース・パッチには、カッターナイフで溝が彫ってありました。それによって上の歯が常に同じ位置に固定され、アンブシュアを安定させることができるそうです。僕は当初11mmの所に溝を掘っていましたが、徐々に浅くして行って、現在は先生と同じ8mmになりました。
「プリンツはこんな所だったよ」と言って、先生は20mmくらいの所を指差しましたが、俄かには信じられない程の深さです。なお、先生のマウスピースは楽器と同じライトナー&クラウス製ですが、開きが少なく、フェイシングが長いヴィーナー・バーン(Wiener Bahn)だそうです。

Pause 先生の愛車、赤いアウディのナンバーは、モーツァルトのクラリネット協奏曲のケッフェル番号です。

Ⅱ演奏編
1.アンブシュア
良い音を出すためには、上下の唇は常にlocker(ロッカー:リラックスした、ゆるい)に保たなければなりません。そのためには頬をある程度緊張させる必要があります。
頬はいかなる場合も膨らませてはいけません
*ブラームスのソナタ第1番第3楽章をレッスンしている時でした。ヘアマン先生は上のdを、上から2番目のサイドキイを使って出すように仰るのだが、これがブーブーいうばかりで中々当たらない。「楽器がヘンなのでは?」と、差し出した僕の楽器を吹いた先生、苦もなくdを出して「Kein Problem(全然問題ない)」。
消沈した僕に「学生の頃、僕もよくプリンツ先生から同じ事を言われたものさ」、とフォローしてくださった。
優しい先生である。

それからアンブシュアのチェックが始まった。先生は、僕が上のcisやdで少し頬を膨らませる癖がある。そうすると唇の周りの筋肉が緊張して硬くなり、必要以上に噛むのでリードが充分に振動しない。逆に、頬をある程度緊張させることで唇がリラックスしてゆるくなり、充分な振動と音量が得られる。つまり、頬と唇は相反関係にある、と仰るのだ。

確かに思い当たる節がありました。音が飛び出しやすいcisとdで、頬を少し膨らませて息の圧力を抜く癖が身に付いてしまったようなのです。感覚としては「音を迎えに行く」とでも言うのか、「お願いだから飛び出さないでね」と、無意識の内に念じているのでしょう。これでは必要な時(例えば右例、同ソナタ第4楽章冒頭のcis/d)に充分な音量が得られず、発音も遅れがちとなります。

更にこのアンブシュアでは以下のようにピアノでレガーティッシモが要求される場面でサイドキイが使えません。
Brahmsクラリネット・トリオ第1楽章 Mozartクラリネット協奏曲第1楽章、上記パッセージの2回目(エコー)

先生から教えて頂いた実験方法を紹介します。
1、左手親指と人差し指だけで楽器を支えます。(親指はトーンホール、人差し指はaキイの上方)
2、頬を膨らませて息を吹き込みます。cisの替え指なのでそれに近い音が出るはずですが(多分)出ません。
3、右手で頬を挟み、頬を緊張させます。唇が緩みcisが(多分)出ます。

*頬っぺたを膨らますな、とはよく聞く言葉ですが、それがなぜかを教えてくれたのはヘアマン先生だけでした。

大事なことは下唇の赤い部分を口の中に引っ込めないこと。下唇を巻いたり、横に引いたりせず、赤い肉厚の部分でリードをくるむことが柔らかい音を出す秘訣です。

*これはもう読んで字の如しですが、フランス管(ベーム式)メソッドとの大きな違いかもしれません。

口の中は常に、母音のA(独語:アー)、場合によってはO(オー)U(ウー)を発音するときの形に保ちます。いかなる場合もE(エー)、またはI(イー)の形になってはいけません。

*ドイツ管に限らず、深みのある安定した音を出すためには、口の中(奥)を拡げることが大事です。

2.呼吸と発音
肺と楽器は1本のパイプで繋がっているかのように、途中何の抵抗もあってはなりません。
息が全て音になるよう、喉を緊張させ
て縮めたりしないように。
音は唇で創るものです。全ての音域を舌を使わずに発音できるようになることが大切です。
*一番衝撃を受けたのが「唇(Lippen)で音を創る」でした。ちょっと説明が難しいですが、先生は息をホッツ、ホッツ、ホッツ、と吐くように(あたかも口笛を吹くように)音を出せば良い、ただそれだけのことなのだと言います。逆に言えば、リードをきつく締め上げ、肺からプレッシャーをかけて息を送り込むというような奏法は間違っているというのです。息が効率良く音になれば、タンギングをせずに(つまり舌の助けを借りずに)最低音から最高音まで発音できます。
そうすることで、心身ともにリラックスした状態で演奏(音楽)に専念できるようになるのです。
実際にやってみると、中音域は比較的簡単ですが、最低音域はひっくり返りやすく、高音域は音程が下がりがちになるかも知れません。ポイントは、高音域になっても決して口を締めないことと、息を吹き込むことを忘れないことです。

3.タンギング
1.なぜタンギングをするのか?
タンギングは、「はっきりと発音する」というアーティキュレーションの一種です。
*これも目からウロコでした。ライスターがレッスンで、「Pではタンギングせずに音を出しなさい」と言ったことと符合しますが、先生はさらに、ffでもタンギングしない場合もあるし、ppでもタンギングする場合もある。タンギングする、しないは、その音やフレーズをどう吹くべきかによると言います。まさに正鵠を射る言葉だと思いました。
かつて、フランスに留学経験のある有名クラリネット奏者に、「音の出だしは必ずツバを吐くようにタンギングしなさい」と教えられたこととは天地の開きがあります。
なお、ヘアマン先生の恩師であるアルフレート・プリンツ(元ウィーンフィル首席奏者)は、曲の出だしなどでもめったにタンギングをしなかったそうですが、モーツァルトやウェーバーの協奏曲などでのタンギングは「完璧だった」そうです。

発音とタンギングの練習

1.任意の音をロングトーンします。最初は開放のソや下のドから始めるのが良いでしょう。
  「かすかな息の音の中から音が生まれ、音が消えてからも息の音だけが残るように」。
2.必ず同じ音を使います。1拍60位のテンポで、舌を使わず息だけで発音します。できるだけ
  短く発音しますが、腹筋に頼りすぎてお腹がペコペコならないように。口笛を吹く要領です。
3.次に舌を使って発音します。タンギングにおける舌の位置は次項を参考にしてください。
4.最期は、下記のリズムを使って舌を速く動かす練習です。次の拍の頭まで、ぎりぎり待って
  発音することがポイントです。
以上の練習を最低音から最高音域の任意の音で繰り返します。

2.舌の位置
管楽器にとって最も重要なことは、楽器の中に常に息が送り込まれていることです。それはホバー・クラフトが空気の層によって波の上に安定して静止していられるのに似ています。舌が息の流れを妨げないようリードの先から少し深い部分に接触します。
*タンギングにおける舌の位置は、外からは窺い知れないこともあり、ドイツ管に限らずクラリネット学習者にとって大きな疑問であり課題でしょう。教則本や専門誌の記事にも様々な記述があるので、一体どれを信じてよいのか分かりません。中には自分の弟子にも秘密にする奏者もいるようです。私は長年、舌とリードは接触面積が少ないほど良いと信じ、リードの先端2~3mmの所を舌の先でタンギングしていたので、ヘアマン先生からリードの先端から10mmほどの所を示された時にはびっくり仰天しました。ところが実際その深い位置でタンギングしてみると、息がスムーズに流れるので、音が豊かに、生き生きしてくるようです。更に舌もリラックスできるので、却ってタンギング・スピードが10目盛近く上がったのは望外の喜びでした。「プロの中にもタンギングに問題を抱えている人は沢山いる」そうです。
旧タンギング:緊張した舌の動きがスムーズな息の流れを妨げる 新タンギング:リラックスした舌は息を乱すことなく速く動く

4.レガート
一つの音から次の音に移る時は、6つのステップを踏みます。
1.出す音をイメージする → 2.演奏する → 3.音をコントロールする → 4.次の音をイメージする → 5.準備する(呼吸など) → 6.演奏する
これらが完全なら、グリッサンドのように滑らかに移行できます。
*次の音をイメージして呼吸や指やアンブシュアの準備をするステップが大事です。指も機械的に動かすのではなく、静かにゆっくりと動かします。下の楽譜はレッスン用にヘアマン先生が書いてくれた練習曲の一部です。
レガートの練習


1.まず、エーラーにとって一番易しいト長調から始めます。上のソまで行ったら、今度は上のソを起点として1オクターブ下がってきます。各ステップを頭の中で意識しながら、次の音に移るまでに5秒位かけます。基音(ソ)に戻る時のレガートも忘れないように。

2.次は、第3間のドを起点にハ長調の1オクターブ往復です。これも基本の調ですが、音程が開くにつれてアンブシュアの柔軟性が求められます。ウェーバーの2番コンチェルト第3楽章の冒頭を吹くには避けて通れませんね。

3.次は、第2間喉音のラを起点にイ長調(♯3つ)。初めてレジスター・キイをまたいだレガートの練習です。レガートとともに音色が変わらないよう注意すること。また、音が上がるに従って息の吹き込みが必要です。

4.最後は、下第1線レ♭(desです)を起点に変ニ長調(♭5つ)で練習します。さらに動かすキイが増えるので左右の指のスムーズな連携が必要となります。

*レッスンは何時もレガートの練習から始まりますが、必ずしも全部を吹くわけではありません。自分なりに工夫して様々な調性で練習てみるのも良いでしょう。「僕は33年間、毎日この練習を続けているんだよ」と先生。

*モーツァルトのクラリネット協奏曲第2楽章のような音の大きな跳躍も、ほとんど2.の練習に含まれているので、きれいなレガートで吹けるようになります。


Pause  密かに「説教部屋」と呼んでいた先生のレッスン室。庭の離れの内部は至る所に吸音材が貼られていて全く響きません。家で良いと思ったリードもここではスカスカだったりします。「今の音はまるでフランス管のようだったよ」と何度言われたことでしょう。
 
5.フィンガリング
1.指の形
演奏中は指を高く上げてはいけません。使っていない指もキイにコンタクトしているごとが大事です。また、左右の小指はできるだけアーチ型を保つように。
*日頃の練習から鏡を見て指が上がりすぎていないかチェックします。特にA/Eを吹く時の右手小指はF/Cキイに、C/Gでは、右手中指がカバードキイに軽くタッチしていることが理想です。長年の指の癖を取り除くのは大変ですが、クラリネットに限らず名手と呼ばれる演奏家はすべからく指の動きが見えないほどです。

*小指のアーチは、キイとの接触面積を少なくして、h/cisとc/esのローラーをスムーズに操作するためですが、小指が短い僕には結構辛い要求です。

2.ミ♭(es/dis)⇔ファ(f)スライド
右手人差し指、第2関節の上の盛り上がっている部分を使います。ミ♭で立てていた人差し指を折るようにしてファに移ります。
ミ♭(es) ファ(f)
*フラットが4つ(変イ長調)以上付くと頻繁に出てくる中音のes⇔fスライドは、エーラーの最もイヤなフィンガリングでしょう。僕は今まで右手小指を立てたままスライドさせていましたが、先生からこのコツを教えてもらってからは確実にスピードが高まりました。

下の譜例は♯系ですが、ドビュッシーの第1ラプソディーに出てくるフレーズです。


3.実戦的フィンガリング
時と場合に応じて様々なフィンガリングを使い分けますが、基本はガーベルです。
*普段の練習からできる限りドイツ管の伝統的な指使いであるガーベル(Gabel:フォークフィンガリング)を使います。理由は、楽器がガーベルを前提として調整されていることと、安易にキイに頼っているとキイが使えないフレーズで困るからです。当然ながら曲のテンポ、音程、フレージングなどによって使い分けます。

スロート(喉音)の指使い
*鳴りや抜けが悪かったり、音程が微妙だったりと、何かと問題の多いスロート部のaとb(ais)ですが、先生から左記の指使いを教えて頂いてからは迷いがなくなりました。
それぞれ左が“標準の”指使い、右はスケールや半音階等(後述)で使用する替え指です。
多くのトーンホールを押さえることで、管体が共鳴して音が少し柔らかくなるのと、指を全部押さえるhとの音色の差を最小限にすることが目的です。
また、左右の指の動きを平均化することでフィンガリングをより確実にすることができます。
a標準 a替え指 b標準 b替え指
*中音fis.g.gisの3音は、右手の3,4,5を押さえます(理由は上記の通り)。そのため、スケールの練習等では前後のつながりから、上記のaとb(ais)では、標準とは異なる右の指使いを用いるのです。
最初の内は頭が混乱しますが、何度も繰り返し練習するに連れてできるようになってきます。

*右は、音程が上ずりがちなgとgisの替え指です。ピアノ等とピッチが合わない時に有効です。
  g替え指   gis替え指
使用が推奨される指使い
dは少し高めなのでできるだけ右手薬指(4)を添えます。
それでも高い場合は中指でカバードキイを押さえます。
エーラーの中音eはかなり低目です。
吹き延ばし等では右手小指でcis/gisキイを押さえます。
デイリー・トレーニング

モツコンの指使い・・・ハ長調は難しい!
モーツァルトのクラリネット協奏曲第1楽章、ソロが始まって10小節目の難所です。ベーム式なら1種類しかない易しいフィンガリングですが、エーラー式では順列組み合わせで何10通りもの指使いが存在します。Gmが実際に見聞きした独・墺クラリネット奏者の代表的な指使いは以下の通りです。
印はガーベル、Lは左、Rは右です)
Pe:全部クロスで吹きます。名人は滑らかなスラーで吹けますが、素人は決してマネをしないように。
Sa:最初のCを左中指で出すので滑らかなスラーが掛かります(ウィーン式はこのキイが無い!)。
   Cが高くなりがちですが、このキイはめったに使わないので開きを事前に調節しておきます。
   L3の音色はガーベルには及びませんがR2より良いように感じます。
Sc:初めのCからR2(右サイドキイ)を使用。一番簡単ですが、R2は中音f と音孔を共有しているため
   調節が利かないので、Cのピッチが高いのをアンブシュアーで微妙に調整しなければなりません。
   クレッシェンドの頂点でアンブシュアを緩めなければならないというのもちょっと疑問です。
He:ヘアマン先生のフィンガリング。最初のCを最も音色の良いガーベルで出した後、2回目のCまでの間に
   アンブシュアを少し緩めてR2の正しいピッチを保つことができます。最も合理的かと思います。
Gm:最後のcis(L5)で違うキイに触れてリードミスをするのを恐れてパテントcisを使います。
   音色は少しこもって良くありませんが瞬間的ですし、cisはdの椅音なので音楽的にも問題ありません。
Op:先生が「こんなのもあるよ」と教えてくれたフィンガリングです。f で左手小指の通称ブロークン
   ハート・キイを使います。そのf から真下にあるパテントcisキイに“飛び降りる”のです。
   やってみると実に効果的で、少しトリッキーですが3小節目の2拍目が苦手な人にはお勧めです。

デイリー・トレーニング:鏡に向かい、四分音符40~60程度のゆっくりしたテンポで吹きます。
            挙げた指が何時もトーンホールの真上にあるように動きをチェックしましょう。


6.ピッチについて
ピッチが高いと音色が鋭くなってしまいます。ピッチは、タルの内径やリードの厚さ、その日の天気によっても変化するから常にチューナーでチェックしなさい。
魔法の指輪1mm厚(左)と0.5mm厚
ヘアマン先生はGmの楽器のピッチが高いと仰る。NDRは伝統的な音色を維持するため、A=442Hzを遵守しているそうですが、ドイツ管のピッチはメーカーを問わずドイツオケの標準A=443Hz(ベルリンフィルは444以上?)で設計されているので、A=442Hzで吹くとちょっと困った事が起きます。 管長が最も長いシに合わせてタルを抜くとスロート部(喉音)のシ♭、ラ、ソが極端に下がってしまうのです。

そこで下管やベルも少し抜き、できるだけ音程の落差を少なくするよう努めるわけですが、抜き過ぎると今度は別の弊害(他の音程、音抜け、キイ位置)が生じてきて実に具合が悪い。現在レッスン中のブラームスの「クラリネットソナタ第1番」は、のっけからこの問題に直面します。

この難題を解決する部品が、ヘアマン先生やマサノリ小林さんが使っているという写真のリングです。厚さ1mmと0.5mmがあり、それらを組み合わせてタルの、上管とのジョイント部分に挿入します。タルを抜いた時に生じる空間を、このリングで埋めてスロート部のピッチの低下を防ごうというわけです。リングの存在は知っていましたが、今回試してみて、これほど効果があるものとは迂闊にも知りませんでした。

GmのYAMAHAの場合は、標準付属の56mmのタルに2mmのリング(フィンガリングによっては1.5mm)がジャストフィットでした。このリングはメーカーに頼んで作ってもらったそうですが、コンパスと薄いプラスチック板(原理的にはボール紙でも可)さえあれば簡単に自作できるので、同じ問題でお悩みの方はトライしてみることをお勧めします。
1(黒).
純正56mmのタルを一杯に挿して吹くと、どの音も8セント前後、つまりこの音域では約2Hzも高い(444Hz)ことになる

2(青).
442Hzに合わせてタルを抜くと、シ♭、ラ、ソが20セントも下がってしまい使い物にならない

3(赤).
そこで1mm厚のリング2枚をタルと上管の間に挿入すると、まだ高めだがかなりの改善が見られる

4(緑).
さらに下管ジョイントとベルを各々0,5mm~1mm抜くと、ほぼ理想的な音程が得られる 


 Pause 弟子:先生は1年に何枚位リードを使うんですか?
先生:そうさなー、まあ1箱もあれば充分だろうな。
弟子:ひ、ひ1箱?!1年っすよ、マジっすか?!
先生:練習には古いリードの方が勉強になるんだよ。
弟子:なーる。よっ、1年を10枚で過ごすいい男!
 

7.ドイツリード調整法・・・めざせ!1年1箱
付録:リードが出来るまでの7工程
1.葦(アシ)は
節のない竹
のようです
2.刃物で
4等分に
します
3.約7cmの
長さに切
ります
4.底面を
平に削り
ます
5.適正な
幅に切り
ます
6.機械で
型通りに
削ります
7.チップを
丸く切って
完成です

Ⅲメンテナンス編
楽器の仕舞い方
1.マウスピースを外し、タルを着けたまま上から下へスワブを通します。
  *息は上から下へ抜けるので、スワブも上から通します(理想的には2~3回)。
  *タルを取ると、長い間に大事な上管上端の縁を丸めてしまう恐れがあります。

2.上下管を外し、トーンホールの外から中へ強く息を吹き込みます。
  *下管のエーラーメカあたりは要注意。
  *管の中を覗いて水が出ていたら、もう一度スワブを通します。

3.上管の下端を塞ぎ、上端から息を吹き込んでトーンホール内の水を外へ飛ばします。
  *左手小指で塞ぎ、右手でキイを操作します。

4.水が出たトーンホールは、クリーニング・ペーパーを挟んで水を吸い取ります。

5.ケースに収めクロスを掛けますが、通気のため蓋は開けておきます。
  *クロスは埃よけのため。ケースは鍵を掛けない状態(半開き)でも良いでしょう。

*マウスピースも清潔にしておかないと、汚れによって寿命を縮めてしまいます。
特に先端(チップ)の両側は汚れやすいので、演奏後は必ずクロスで拭きましょう。
チャンバー内はスワブを貫通させず、途中で止めて引き抜きます。

 
( Last Revised 2019.02.07 by Gm)