クラリネットを愛する人でベールマンの「アダージョ」を知らない人はいないだろう。たった44小節の短い曲だが実に瞑想的で美しいメロディーを持っている。
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名奏者H・ベールマン |
息子のK・ベールマン |
この曲は長い間かのリヒャルト・ワーグナーの作品と言われていたが、現在では19世紀の初頭にミュンヘンで活躍した当時随一のクラリネット奏者、ハインリッヒ・ヨゼフ・ベールマン(1784―1847)の作品とされている。
ベールマンはウェーバーやメンデルスゾーンがその美しい音と技巧に魅せられて多くの作品を捧げた名演奏家として音楽史に名が記されているが、もしベールマンがいなかったら、ウェーバーのクラリネット五重奏曲や、コンチェルティーノを含む3曲の協奏曲、さらにメンデルスゾーンの2本のクラリネットとピアノの為の演奏会用小品2曲などはこの世に存在しなかったと考えれば、クラ吹きなら誰しもその存在の大きさを実感できるだろう。
因みに、ベールマン式クラリネットの開発者であり、クラリネット教本(Klarinett-Schule)でも名高いベールマンはハインリッヒの息子のカールで、やはり非常に優れたクラリネット奏者であったという。
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オレじゃねーよ |
さて「アダージョ」の作曲者を巡る論争の経緯はこういうことらしい。1922年に南ドイツのビュルツブルグで「アダージョ」の手書き楽譜が発見された。これはきっと1833年から翌年にかけてビュルツブルグに滞在したワーグナー(当時20歳)が、地元で知り合ったクリスティアン・ルンメルというクラリネット奏者のために書いたものに違いないと思われ、1926年にワーグナーの作品として出版された。
当時からその真贋が取り沙汰されていたのだが、実はそれに先立つ100年も前の1821年に出版されたベールマン作曲クラリネット五重奏曲の楽譜がフランクフルトに存在し、その第2楽章がこの「アダージョ」そのものだったことが今から40年ほど前に分かったと言うのだ。さらに1819年にベールマン自身がロンドンでこの曲を演奏したとする記録も存在するとのこと。
だとするとベールマンと言う人は卓越したクラリネット奏者であったばかりか、作曲者としても相当な腕前を持っていたことになる。ならば是非ベールマンのクラリネット五重奏曲全体の楽譜を手に入れ、第2楽章以外の楽章も吹いてみたい、そしてもしそれも良かったらどこかで演奏してみたい、と夢は膨らみ早速楽譜(ピアノ伴奏)を購入してみたのだ。
のだが、、、どうしたわけか「アダージョ」を挟む両端楽章の「アレグロ」はほとんど音階と分散和音の連続で、印象的なメロディーや独創的なアイデアに乏しく、天才的なインスピレーションが感じられない。つまり決して悪くはないのだが、イケてないのだ。
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たとえば、第3楽章アレグロのテーマはこんな感じ |
だんだん掛川初演?の意欲がしぼむと同時に「アダージョ」はほんとにベールマンが作曲したんだろうか?という疑念がふつふつと湧いてきた。
ベールマンは他にもクラリネット作品を沢山書いているようだから、音楽学者なら彼の作品群を精査し、その作曲技法やイディオム等を比較・分析して推測するのだろうが、素人のGmは『何だか別人の作品のような気がするなー』と言っていれば良いだけだから気楽なものだ。
だいたい1,3楽章の「アレグロ」が変ホ長調なのに第2楽章の「アダージョ」だけが関係調でもない変二長調なんて何かヘンニ感じない?早い話、例えばハ長調で始まった曲の第2楽章が1音下の変ロ長調ということだからこれは由々しき事で、“木に竹を接ぐ”とはこのことだよね。
ただ「アダージョ」が変二長調、つまりB♭管で変ホ長調なのは良く解る。この曲の頂点である34小節目の最高音をesにしたかったからだ。ドイツ管のesは高音域で最も美しく安定している。dでは音が太すぎるし、eやfでは細く不安定だ。また、それに続く36小節目頭のテヌートが付けられた夢のような上のcは、クロス・フィンガリングによる温かさと芯の強さが必要なのだ。
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リサイタル(2008/06/01)より当該部分
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この曲はまさにドイツ・クラリネットを熟知した人の作品に間違いはない。冒頭の弦楽器による半音階的な絡みと、寄せては返す波のうねりのような息の長いフレーズ。オペラのアリアのような叙情的なメロディー。翳りある和声の移ろいと劇的な表現のコントラスト。癒しと救いの終結部。。。
この小さな「アダージョ」には音楽の魅力が凝縮されていて、長い間ワーグナーの作品と信じられてきたのも無理はないと思わせる。では、一体この珠玉の小品を生んだ真の作曲者は誰なのだろう?
ベールマンと終生固い友情で結ばれていたウェーバーをおいて他にはあるまい。 |
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バレちったか、、、 |
後日談 |
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(2005.05.28 by Gm) |
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