同じドイツ管でも、ドイツ国内のオケやプロ奏者の間で広く使用されている「エーラー式」と、ウィーンで正統的なシステムと公認されている「ウィーン・アカデミー式」とは、どこがどう違うのだろうか? ベルリングの有無や中音a/gis連動の有無、トリルキイの位置や僅かな内径(ボア)の違いなど瑣末なことはさて置き、構造上もっとも差異の大きい下管b/f音のメカニズムに絞って観察してみよう。 まず目を惹くのは、右手中指で押さえる真ん中のトーンホール(音孔)が、ウィーン・アカデミー式ではリングキイなのに、エーラー式ではカバードキイになっていること。実は、エーラー式のカバードキイの下にはトーンホールが無く、カバードキイから伸びているアームによって、すぐ上にあるキイを開閉している。また、ウィーン・アカデミー式では、下管のかなり下の方に通気用のサイドキイが一つだけ設けられているのに対し、エーラー式ではカバードキイの近くに、同時に開閉するサイドキイが2つ設置され、通気を更に改善している。これがエーラー式の由縁たる「エーラー・メカニズム」なのだ。
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この下管のキイメカの違いが音によってどのように働くのかを模式的に示すと以下のようになる。 (○=開、●=閉) |
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左手全閉、右手全開のソ/ドでは全く同じ吹き心地と言ってよいだろう。 |
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→ ベル方向 | ||||||||||||||
ベームに比して圧倒的に音色が優れているファ♯/シも全く同等と言える。 |
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半音を一つ飛ばしてミ/ラは完全に一致している。 ミ♭/ラ♭以下も全く同じなので省く。 |
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さて、問題はファ/シ♭である。右手薬指(4)で通称バナナ・キイを押さえると、、、 | ||||||||||||||
両システムとも完全に同一である(左手小指のF替え指キイを押しても結果は同じ)。 音響学的に見ても最も正しい位置と思われる。 |
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では、リコーダーやオーボエにも見られる伝統的なフォーク・フィンガリング(ガーベル)ではどうだろうか? 右手中指を上げるので、ウィーン式ではキイ使用時の理想的な位置より上に孔が開かざるを得ないが、エーラー式ではキイの音孔と同じ円周上に孔を開けることができるのだ。 |
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オスカール・エーラーの名を今日に伝えるこの優れたエーラー・メカニズムは、キイ使用時とフォーク(ドイツ語でガーベル)使用時のファ/シ♭の音色、吹奏感をほぼ完全に一致させることに成功した。一方、ウィーン・アカデミー式を注意深く吹いてみると、下のシ♭はフォーク時にややこもった音色となり、上のファでもキイとフォークでは僅かな音色の違いを感じ取ることが出来る。 だが、だからと言ってエーラー式の方がウィーン・アカデミー式より進化し、優れた楽器であると断定するにはやや躊躇を覚える。逆に言えばエーラー式は、微妙な音色の使い分けやリングキイがもたらす指のフィット感、右手中指で音孔を僅かに塞ぐことによる音程の微修正(特に下のシ♭は高め)を捨てたとも言えるし、メカの複雑化による製作や調整の難しさ、コストアップもネックとなる。 そもそもウィーンの人達は、些細な改良に血道を挙げるドイツ人が苦手なのかもしれない。そういえばレッスンの時、アイヒラー教授が、「君のと僕のはシステムが違うからね」と仰ったことを思いだす。
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