今ドイツやウィーンのプロ奏者に最も人気があるマウスピースはヴィオット(Viotto)だろう。日本でもイシモリを通じて多くのモデルを入手することができるので、ホルツ会員にも愛用者が多い。
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ドレスデンでお会いしましたね |
このマウスピースの製作者、Heinz Viottoさんはドイツ、デトモルトの近郊に住む数学の先生で、彼自身もアマチュアのクラ吹き。工場を持ってマウスピースを量産しているわけではなく、マウスピース作りはあくまで趣味、副業のようだ。
ドイツの老舗マウスピースメーカー、ハンス・ツィンナー(Hans Zinner)社からベースとなるマウスピースを供給してもらい、自宅の工房で一つ一つフェイシングを削っているから、せいぜい週に5,6個しか作れない。それを30年以上続けているというから、その強靭な意志力はとても常人のものとは思えない。自らをクレイジーと呼ぶ所以だ。
ツィンナーやヴリツァー製のマウスピースをBMWやベンツの量産車に喩えれば、ヴィオットさんはさしずめHARTGEやAMG等のチューンナップメーカーと言えるだろう。
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テーブル上には切削した
横縞模様が残っている |
Viottoのマウスピースには必ず共同開発者のイニシャルが付いている。
LはKarl Leister、SMは言わずと知れたSabine Meyer、PはPeter Geisler(ベルリンフィル)、NはNorbert
Kaiser(シュツットガルト音大教授)、KはHans-Dietrich Klaus(デトモルト音大教授)、そしてGはGunter Forstmaier(バンベルク交響楽団首席)である。
そしてイニシャルの後に続く+や−は標準の開きより何%広いか又は狭いかを示している。例えばP+4は標準モデルより4%開きが大きいということらしい。それにしても1mm前後しかないマウスピース先端の開きの1%と言えばミクロン単位の加工だから大した職人芸である。
因みに、リフォームド・ベーム用にはモデル名と反対側(通常左)にRの文字が刻印されているが、ほんの少しボア(内径)が違うだけなので、音程にさえ気をつければ余り気にすることもないようだ。むしろ高音域の音色が鋭くなり過ぎないので、ドイツでもエーラーにRを付けて吹く奏者も多いという。
Viotto独特の音の深みと温かさは単にフェイシングの長さやチップ・オープニングの違いだけによって作られるのではなく、チップに至るカーブ(アーチ)形状や、マウスピース・チャンバー内のヤスリの一擦りにあるのではないかと推測している。
謹告:沢山の素晴らしいマウスピースを提供して下さったヴィオットさんは、2016年に逝去されました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
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ヴィオット邸訪問 |
(Last Revised 2019.05.14 by Gm) |