ゴイザーの音を求めて | |||||||||||||||||||||
マエストロのマウスピース |
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ベルリン国立歌劇場やベルリン放送交響楽団の首席奏者を務めながら多くの名録音を残したが、残念なことに今ではそのほとんどが廃盤となっていて、入手は極めて難しい。 Gmが高校時代から大切に保管してきたモーツァルトとウェーバーのクラリネット五重奏曲がカップリングされたLPレコードは、ゴイザーの音の素晴らしさを今に伝えてくれる貴重な記録となった。 あのハガネのように強くしなやかでありながら、時としてビロードのように滑らかで柔らかく陰影に富む音色は、他の奏者からは決して聴くことができないゴイザー独自のものだ。 僕を「エーラーへの道」へと誘ったあの魔法のような音は、一体どのような仕掛けと奏法から生み出されたのだろう? 30年前、N響に在籍しながら1年余りベルリン音大でゴイザーに師事された内山洋先生が、帰国時に記念に貰ったというゴイザー全盛期のマウスピースを今回ご好意によりお借りすることができた。そのマウスピースを精査することで、ゴイザーの音の秘密を解き明かす手掛かりが得られるかも知れない。
ゴイザーのマウスピースはグラナディラ製で、正面にはメーカー名がグレッセル(G.GRAESSEL NURNBERG)と彫り込まれている。ゲオルク・グレッセルは20世紀前半に活躍したニュルンベルクの高名な木管楽器製作者であり、ゴイザーの楽器もグレッセル製だったという。そういえば、昨年ニュルンベルクの博物館にデナーのクラリネットを見に行った際、フロア-の一角にグレッセルの工房が再現されていて、当時の旋盤や冶具類や写真などが整然と展示されていたことを思い出した。
こう書くと良いことずくめのようだが、これが中々一筋縄では行かない。まずプロファイルが特殊なので市販のリードが全く合わない。ヴァンドレンやフォリエッタのように先端部分が薄く設計されているリードは少し噛むと張り付いてしまいリードミスを誘発する。先端の厚いシュトイヤーだと息が入らず苦しい上にリードが自由に振動しない。特に音の出だしや音程の跳躍時にはアンブシュアと息のコントロールに余程気を使わないと良い結果が得られない。 内山先生のお話では、マエストロ(ゴイザー)のリードは決して厚くはなく、息は口元で「コーッ」と渦を巻くように音に変換され、その響きはあたかもオーケストラの床を這うようだったという。また、ゴイザーにはリード作り専門のマイスターがいて、そのマイスターからから「はい、これ」と渡されたものを吹いていたとのこと。この気難しいグレッセルの底知れぬ能力を最大限に引き出すリード作りのノウハウはもはや永遠に失われてしまった。 |
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(2007.04.22 by Gm) |